イワトビと別れ、海岸沿いにロッジのほうへ引き返した。まだ会っていない動物がいる。オタリア(アザラシの仲間)だ。英語でシーライオン(Sealion)という、この島の名前にもなっている動物、特にオスのオタリアは顔が大きく立派なたてがみを持っていて、ライオンに本当にそっくりなのだ。その勇姿をぜひ見たくて歩いたが、なかなか会うことはできない。あれかと思って近づくと、もういつものバカ面アザラシばっかりなのだ。ダメかなーと思って崖の上を歩いていると、波打ち際に、銅像のように見える岩があるのが見えた。しかしその黒い固まりはじっと見ているとかすかに動いた。もしや、と思い近寄ってみた(それでも崖の上から見下ろす形でしかなかったが)。
正に堂々とした存在感だった。水に濡れたせいか真っ黒に見える体で上半身を起こし、海を見つめじっとしている。普通のアザラシとは明らかに違う、大きな顔とたてがみ、その姿は離れた崖から見ていても恐怖感を覚えるほど。そのままもう少し歩いてみると、他にもそれは何頭かいた。オタリアは普通、1頭のオスに何頭ものメスが群がる、いわゆるハーレムを作る。その通り、でっかいオス1頭と何頭かのメス、という組み合わせがいくつか見られた。やっぱり、あのアザラシ達のバカ面とはひと味違う。かっこいい。近くで見られないのが残念だった。しかしアザラシに比べてこのオタリアはかなり凶暴らしく、いたる所にオタリアに注意との看板があったので、仕方がない。
念願のオタリアも見られたので気を良くし、いったんロッジに戻った。明日はスタンレーに戻る日。時間があるかどうかわからないので、今日が最後の日かもしれない、そう思うとゆっくりはしていられなかった。7時のディナーをキャンセルする旨のメッセージを残し、改めてジェンツーのコロニーに出かけた。そしてジェンツー達との再会。今日は、親鳥がわざと逃げて子供にそれを追いかけさせ、コロニーからはずれた所まで呼び出して餌をやる、いわゆる「呼び出し給餌」という光景があちこちで見られた。親が全速で走り、その後をヒナが必死で追いかけ、時々コケたりして、それはそれは賑やかで面白かった。
昨日の1羽だけのキングペンギンを探しに行くと、昨日と同じ場所にいたのですぐに見つかった。相変わらずの寂しげな姿で、とても見ていられない。といってもこっちが思っているだけで、本人は別に平気なのかもしれないが。こいつも見納めかもと思うと、ここでもまた立ち去れない。この時間ぐらいから風が強くなり、かなり寒くなっていた。物陰に隠れて止むのを待ったが、強風はなかなかゆるまなかった。
一人キングに別れを告げ、バカ面達も見納めてから、反対側の海岸へ向かう。そこでは、1日海で餌を取り、おなかに溜め込んで巣へと帰っていくたくさんのジェンツー達の姿があった。海岸からコロニーまで一つの長い列が出来ていて、海からあがったお父さんジェンツーやお母さんジェンツー達がせっせと自分の家めざして帰っていく。傾きかけた陽のもと、イワトビ達と同じように、そこには生きる姿があった。そこでふと、異物を発見。何と、つがいのキングペンギンがいるではないかっ!!実はロッジのスタッフに、この島には3羽のキングペンギンがいるという話を聞いていて、残り2羽にぜひ会いたいと思っていたのだ。それが...「いるやん!!」
めちゃくちゃ感激して、一気に駆け寄った。キングはここでもジェンツーの群れの中でただひっそりとたたずんでいる。今度は2羽、でもやっぱり存在は浮いていて、はかなげな感じは否めない。これで、この島にいるキングペンギン全てに会えたことになる。しかしジェンツー達はみなコロニーへと帰っていくのに、彼らには帰るべきコロニーはない。いつの間にか周りには他のペンギンはいなくなり、彼らキング2人だけになってしまっていた。1羽は羽が半分ほど抜けてしまっていて何かみすぼらしい。病気だろうか、ちゃんと食べる物は食べているのだろうか、と親のように心配してしまう。
それに比べてジェンツー達は元気だ。海岸線に立っていると、沖のほうからどんどんこちらに向かって帰ってくるのがよくわかる。波の上を飛び魚のように跳ね、しばらくもぐって姿が見えなくなったかと思うと、突然波打ち際から飛び出すように陸地に上がってくる。そして少しのあいだ羽づくろいをした後、コロニーへと歩いて帰っていく。もうかなり夕日の色が濃くなり、1日の終わりを強く感じさせる。コロニー付近に戻り、高台からこの島を改めて眺めてみた。何というすごい景色だろう。例えようもない。海から上がってくるジェンツーの群れは、まだ絶えない...。