1/20(水)

【イワトビ.束の間の出会いそして別れ】

今日は朝9時から夜9時半まで延々と歩き回った。そしていろんな動物達と出会い、そのたび、うれしさと同時に別れの辛さも感じた1日だった。

朝一番、真っ直ぐにイワトビペンギンのポイントへ向かった。昨日の経験から、ルートはバッチリOK。そして、今日は昨日とはうって変わって目の覚めるほどの青空。ピクニック気分も盛り上がる。島の西側に向かい2時間は歩いたかという所で南へ折れ、海岸へ向かう。しばらくすると、草地だった風景が赤土の地面に変わり、そして岩場が見えた。そろそろかなと思い進んでいくと、断崖の上に首の長い鳥が固まっているのが見えた。しかし、更に近づいてみると、その鳥の群れの中に、何とイワトビペンギンが半分ぐらい混じっているのがわかった。同じような白黒の模様でわかりづらかったのだ。

初めての野生のイワトビ。ジェンツーやマゼランよりも小さい。頭には黄色の飾り羽があり、目は赤色できつく、ぱっと見は怖い感じもするが、動作には愛嬌があり、なかなか人気の高いペンギンである。そこにはコロニーが4カ所ぐらいあって、移動しながらカメラとビデオの撮影を繰り返した。しかし全て断崖絶壁の上で、いったいどこから海に降りるのだろうかと探し回った挙げ句、やっとその場所を見つけた。いや本当に、もんのすごい絶壁。確かに90度よりはなだらかだが、ほとんど垂直といってもいいほどの崖で、しかも大波が打ち寄せては音をたてて砕け散る、そんな場所を次から次へと登っては下りていく。その有様は神々しいほどの生き様を見せてくれていた。

下りていく時には、何羽か連れだって少しずつ滑るように崖を下ってゆき、いよいよ波がかかるかという所でしばらくたたずんでいるとたまの大波にさらわれるようにして海へと消えていく。しばらくすると今度は、ガアガアと一際大きな鳴き声が海から聞こえたかと思うと、青白く濁る波の表面にペンギン達の黒い背中がいくつか見え、波が押し寄せ引いていく瞬間を目がけて崖の一端に食らい付き、次の波が押し寄せてくるまでに一目散にかけ登る。失敗すると、次の波にさらわれてまたやり直し。それを幾度となく繰り返す。ただ生きていくのならもっと楽なやり方もあるだろうに、イワトビ達はただ何度もそれを繰り返す。

イワトビは、ペンギンの中では特に好きなほうでもなかったのだが、今日でそれは180度変わった。何かこう、いかつい顔をしているにもかかわらず、岩場を跳び上がってくる姿は一生懸命で感動的ですらあり、一方で両足を揃えて跳ぶ姿には独特のかわいさがある。時々行き場を失っておろおろしているようなどんくさい所もあって、もう本当にイワトビの虜になってしまった。

昼を過ぎ、少し雲がかかって風が出てくると、風上に向かってフリッパー(手というか羽の部分)を広げてじっと立っている姿がコロニーのあちこちで見られた。恐らく、風で体を乾かしているのだと思うが、何か、その風に乗って、もしかしたらいつか空を飛べるんじゃないかと羽を広げているようで、いじらしく思えた。

本当に、いつまで見ていても飽きることはなかった。少し危険な岩場にも何回も下りてみた。もう帰る時間、そう思っても、なかなか足が向かなかった。明日は時間がないからとてもここまでは来られない、もうこの時間が終わってしまう、そう思うと動けなかった。涙が出そうになる。それでも、「また来るから、必ず」、そう言って、必死で振り切って別れを告げた。




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