【夢のような、正に夢のような】

ジェンツーペンギンのコロニーは、生まれてしばらくたった、親の3分の2程度の大きさに成長したヒナ達でいっぱいだった。マゼランとは違い、彼らは好奇心旺盛で、少々近づいても逃げない。さすがに手を触れるところまでは近寄れないが、しばらくじっとしていると、彼らのほうから少しずつ近寄ってくるのがわかる。そうすると、だんだんと自分を取り囲んで輪のようなものが出来上がる。無数のペンギン達の群れの中に自分が同化してゆく。周りに人間は自分1人しかいない。正に夢のようなひととき。

眠っている奴はたいてい首を後ろに倒しているか、地面に腹這いになっているかのどちらかだが、そおっと近寄っていくと遂には触れる距離までになる。恐る恐る触ってみると、見た目通り、ふかふかの羽毛の感触。触られた奴は驚いて一声あげてから逃げていく。何とも面白い。

浜に出てみると、やっぱりジェンツーとマゼランがいた。たぶんこちらは親鳥で、餌を胃袋に詰め込んでさっきのコロニーへ帰るのだろう。そこから浜づたいに歩いて行くと、だんだん草むらが茂る地帯へと変わっていく。そして、その海岸で、初めて野生のアザラシを見た。

いまだにアザラシやその仲間のオタリアなんかの区別が正確にはできないが、そこにいたのはたぶん普通のアザラシ(ではないかと思う)。いきなり、ごろん、という感じでころがっていた。ちょっと怖いのでそんなに近くまでは寄れない。見るとその先に海岸沿いに何頭か固まって寝ているのが見えた。その辺りでランチボックスを食べた後、海岸をたどると行き止まりになるので、いったん陸側に戻り、その先に進むことにした。

陸側はかなり茂みが深くなっていて、何とか進めるだろうという予感もはずれ、進路を右にとっている間にとうとう反対側の浜に出てしまった。石だらけの海岸に出たとたん、またしてもあの、ごろん、という奴らがいた。今度はかなり近い距離である。遠くに久しぶりに人間の姿が見えた。恐らく一緒に島に入った英国人だろう。ブッシュ(草の茂み)からすぐに石の海岸につながっていてブッシュから波打ち際までは4〜5メートルほどしかない。ブッシュの中にアザラシが寝ている可能性もあるので、そこは歩きたくないとすると、海岸沿いに、かなりアザラシの近くを歩く必要がある。ちょっとドキドキする。そんなことを考え、少し立ち止まって撮影を行っていると、茂みをガサガサと揺らして別のアザラシが顔を出した。...あのお...そこ、さっき僕が通ってきたとこなんですけど...。

やっぱり茂みの中を歩くのは危険だ。さっき通った所にもやっぱりいたのだ。アザラシは人間を見ても特別威嚇するでもなく、ただ寝ているばかりだが、さすがに踏んづけたりするのはまずい。海岸沿いをアザラシから2〜3メートルの距離で移動した。時折こっちを見る奴らもいるが、基本的にはぐうたらと眠っている。しばらく見ていると、なかなか面白く、飽きない。寝ている彼らの顔は何ともブサイクで、バカ面である。以後、この島でアザラシに会う度、心の中で「バカヅラーズ」と呼んでいた。


バカヅラーズ.オリジナルメンバーの皆様

帰る方向にしばらく進むと開けた所に出た。さっきジェンツー達がいた場所の南岸あたりである。しかしその辺りにも、バカヅラーズはいる。今度は30頭ほどの大群。それにしても臭い。臭くてうるさい。げっぷのような「ゲオーッ」というのと鼻を鳴らす「ブルルルン」という音があちこちで聞こえる。そしてまた、見事なバカ面ぶり。君らはいったいいつ働くのだ、と真剣に聞きたくなる。

そしてまたジェンツー達と再会する。可愛い。さっきさんざんバカ面を見てきたのもあって、本当にペンギンは可愛いと実感する(アザラシも好きなんだけどね)。そこでしばらく眺めていると、何かちょっと、目立つ奴がいる。あれ、キングペンギンじゃないの。耳や胸元の黄色のマークは薄いけど、確かにキングだった。見渡してもそいつしかいない。見ていると、何とも寂しげ。どっかから流れ着いたのだろうか。この島にキングはいないと思っていたので、ちょっと意外だった。

そこからは一路、西側にあるイワトビペンギンのコロニーを目指した。しかし、小さな島といっても10km近い距離をしかも道なき道を歩くのは簡単なことではない。結局7時の夕食に間に合わないと判断し、5時過ぎにロッジに引き返した。しかし、この島はすごい。ここを選んでよかったと思う。明日はイワトビ目指して一直線!!









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