1/22(金)

【それはそれは綺麗なキング達】

約束通り9時にやってきたのは、明るく陽気な、ロブというまだ若い男の人だった。昨日は電話だけだったので本当に来てくれるか不安だったが、これでもう今日は大丈夫。途中、いろいろ話をしながら、ランドローバーで快調に飛ばしていった(割と聞き易い英語をしゃべる人だったので良かった)。1時間ほど舗装路を走った後、個人の経営する牧場の中へと入ってゆく。でこぼこの道なき荒れ地を、時折スタックしそうにもなりながら進むのでスピードは出せない。ITTで、車を借りて自分で運転していくことはできるかという問いに、即座にきびしい顔で「NO!」と言ったジェニーの顔を思い出す。確かにこれでは無理だ。

荒れ地を2時間ほど走ると、家と小屋のようなものが見えた。恐らく、1泊する時に泊まる場所だろう。ということは、もうすぐそこまで来ているのか、と思った途端、マゼランペンギンがひょこひょこ歩いているのが見えた。おおーっ。来たか。しかし、今日目指すのはキングペンギンのコロニー。真っ先にそこを目指す。車を降り、丘を越えると、その向こうに2グループに別れて固まっているコロニーがぼんやりと見えた。そして近くに、はぐれたように2,3羽のキングが歩いていた。何ときれいなんだろう。シーライオン・アイランドで見たキングと違い、胸と耳の黄色も鮮やかな姿で、ただのんびりと歩いていた。

近寄るにつれコロニーの全貌がだんだんはっきりと見えてきた。コロニーがあるのは緑の草原の上、そしてその緑の上には、無数のキングペンギンの群れ。胸元と耳の黄色い模様が鮮やかに浮き立ち、背中の黒い羽毛はかすかに青くつやつやと光っている。こんなに綺麗な生き物がいるだろうか。動いているのが不思議な気持ちになる。

地面に這いつくばるようにゆっくり近付くと、かなりそばまで寄ることができる。そこはジェンツーのコロニーとは趣が異なり、大半が直立でじっとしている。卵を抱えているのも多く、お腹の下、足の間のところが「ぽこっ」と出ているのでそれとわかる。本やテレビでよく見かける風景が今、手の届くところに現実に存在する。

キングペンギンの形容は、「かわいい」というよりも、「優雅」というほうがふさわしい。背筋をピンと伸ばすと1メートル近くもあるスマートな体型で、首をふりふり歩いていく。オスが見せるそれは、いわゆる「広告歩き」というもので、そうやって歩くことで自分の黄色の斑点を目立たせ、それにつられてメスがついていくと、めでたくカップル誕生となる。そんな「ナンパ」風景があちこちで見られる。



ここにはキングのコロニーの他、ジェンツーのコロニーも2つあり、シーライオン・アイランド同様ヒナの姿が目立つ。そして、シーライオンでは見られなかった、生まれたばかりのヒナを発見。これぐらい小さいと、ペンギンではなく普通の鳥、という印象が強い。近付くと、親鳥がガアガアとこちらを威嚇するように大声で鳴く。


キングのコロニーとジェンツーのコロニーで30分ずつぐらい過ごしたろうか、もう2時半を過ぎている。今日は日帰りなので、時間がほとんどとれない。最後に浜辺に出てみた。ドライバーのロブに、あとどれぐらいここで過ごせるか聞くと、15分だという。近くまで車で行き、降りてから走って浜辺に出た。とにかくキングを探すと、隅のほうに固まっているのが見えた。近寄るとそこは、海とコロニーの中間にあたる場所で、海から帰る途中のようだった。コロニーのほうに目をやると、とぼとぼと帰っていく後ろ姿がいくつか見える。

今度は波打ち際に寄ってみた。遠目にはジェンツーだけかと思っていたのだが、近寄るとその中にキングも混じっているのがわかった。これもまた鎌倉さんの写真の通り、白砂のビーチに、キングとジェンツーが並んで歩いている、それはペンギン好きにとって正に夢のような光景。そして、すばらしく晴れ渡った青空。この場所にいつまでもいたいと思った。

1羽のキングが群を離れて海に向かって歩き出した。そのまま泳ぐのかと思いきや、なかなか入っていかない。ためらいながら、少しずつ水際へ近付いていく。たぶんまだ若く、海に入るのも初めてなのかもしれない。遂に泳ぎ出すが、とてもうまいとはいえず、何回も泳ぎかけてはまた立ち上がる、という動作を繰り返す。その様をずっとビデオに撮り続けていたが、そのうち、ふっと見えなくなった。

しかし、15分なんて一瞬のようなもの、帰るべき時間が訪れる。それでもすぐには立ち去れず、キングが何羽か固まって歩く姿に見とれていた。ジェンツー達と一緒に歩いていてもキングは足が遅いので、すぐに置いてけぼりになってしまい、最後にはキングだけの集団となる。それでも特にあわてる風もなく、マイペースで歩いていく。キングの集団は、ぱっと見、人が歩いているようにも見える。海岸を少しずつ離れながら、何回も振り返ってその姿を追いかける。かなり遅れて車に戻った僕を、ロブは怒りもせずやさしく笑って迎えてくれた。

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