悪夢。すぐにでも覚めて欲しかった。マドレーヌ島の空港には、日本人係員の女性が待っていてくれた。あいさつを交わし、おずおずとアザラシツアーのことを尋ねてみる。
「...今年はシーズンが悪くて、もう終了してしまったんですよ。」
「ええーっ!!!」
茫然自失。言葉が続かない。あれほど心配していたスーツケースもすんなり出てきたが、もうそれに意味はない。車でホテルに向かう途中も、頭の中は真っ白だった。係員の話しかけにも、生返事を返すのがやっとの状態だった。
ホテルに着き、何とかもう一度催行することはできないか、返してしまったというヘリコプターを呼び戻せないか確認してみたが、当然のようにそれは不可能だった。ホテルには写真家の小原玲さんもいらっしゃって、部屋に入ってしばらくした後、電話で呼び出されて小原さんのお話を伺った。そこで、2月終わりに大きな暖気が入り込み、平均気温が通常はマイナス5度ぐらいのところが10度にもなって氷が溶けてしまったことを知らされた。先週までは、それでも何とか小さな氷の上に着氷することもできたが、3月11日に飛んだところ降りられる氷は全く見つけられず、今シーズンの終了を決めたという。3月11日、それは、僕が大きな夢を胸に日本を出発したその日だった。
話を聞き、部屋に戻ったが、何もやることはない。ただ悲しかった。飛行機の中では、自分の人生を信じ、起きた結果は受け止めよう、そう思い決めたはずだったが...。あまりにも厳しい結果だった。この旅自体が嫌になった。次に控えるオーロラも、慰めにはならなかった。アザラシこそ、この旅のメインだったのだ。これがなければアラスカに行っていた。
働かない頭で、これからどうしようか、ぼんやり考えた。ナイアガラに行く手もあった。しかし、これでオーロラも駄目だったら、本当にこの旅は何の意味もなくなってしまう。それだけは避けたい。イエローナイフへの到着を早め、オーロラに出会える確率を上げる。それしかなかった。