雪雲を抜けると、当たり前だが、青空が覗いた。小さな飛行機だが、音はすさまじい。その轟音の中、思い立ち、歌を歌ってみた。ミスチルの「終わりなき旅」、そしてさだまさしの「赤い靴」。周りの音にかき消され、誰かに聞かれる心配はない。歌いながら、少し考えた。焦ってもしかたない。自分の人生を信じよう。出来る限りのことをやり、後はその結果を受け入れよう。
天候まかせの旅が、こんなにきついとは思わなかった。出発前にアザラシツアーの状況を聞かされてからこれまでの経緯で、精神的にボロボロになっている。でもやっぱり、楽しみたい。そのためには、今思ったようなことしかない。青空と明るい日差しの力を借り、そう考えることができた。やがて飛行機は、モン・ジョリという、聞いたことのない名前の小さな空港に降りて行った。
一緒に飛行機を降りた乗客達は、皆それぞれの用意した車に乗って空港を離れていった。次の便を待つために空港に残ったのは僕一人らしい。係員もほとんどいない建物内で、つけっぱなしのテレビが場違いに大きな音を立てている。自動販売機でジュースとスナック菓子を買い、椅子に腰を下ろして長い待ち時間を過ごすことにした。先程少し外に出てみたのだが、周りには本当に何もない。ただ雪の平原が広がっているだけだ。小雪の舞う中、デジカメで写真を撮っていたが、寒さに耐えきれず、すぐに中に入った。
次の便はちゃんと飛ぶことができるのだろうか。最悪の事態、それはこの場所に引き留められることだ。この何もないところで一夜を明かすのはどうしても避けたい。町に移動して探せば宿はあるだろうが、その手間を考えると、憂鬱感でつぶれそうになる。それに、また明日も駄目、とでもなれば、便数の少ないこの場所よりも、モントリオールにいたほうが良かったということにもなりかねない。飛行機の中で持ち直したはずの気持ちは、この何もないどんよりとした風景の中で、また悪い方向に堕ちてしまっていた。気分を紛らわそうと、これまで書けなかった日記を書く。
出発時間が迫ってくると、どこからともなく人が集まってきた。しかし、なかなか出発のアナウンスがない。遂に搭乗時刻を過ぎても、係員は姿を現さない。集まった人々がざわつくたび、欠航かと不安になる。1時間が過ぎたところで、ゲートが開き、外から人が入ってきた。しかし、他にはまだ何のアクションもない。しばらく人が入ったり出たりするのを眺めていると、唐突に、集まっていた客が動き始めた。搭乗が始まったようだ。よし、飛べる!!また一つ安心してバッグを手にした。実は、まだ不安は一つあった。モントリオールで便の変更を行った時、預けてあったスーツケースが正しく変更されているかの確認をしていないのだ。しかし、それはどうにでもなる。とにかく、この体さえマドレーヌ島へ渡れれば、それで良い。