3/16(木)

【カリブーの群れ】

午前中は、カリブー(北米トナカイ)の鑑賞ツアーだった。9時に起きるのはつらいかと思っていたが、昨晩オーロラ鑑賞から帰った後あまりよく眠れず、今日は早くから起き出していた。

同行者は、昨日オーロラツアーで一緒だった、同じ愛知県から来られた4人組の方だけだった。そして、係員は市内観光でお世話になった男性だ。値段が他のツアーと比べて高いので、人数も集まりにくいのだろう。

市内観光でも通りかかった「Air Tindi」までは10分ほどで着いた。ツアーは、このエアポートから小型飛行機に乗り、カリブーの群れを見つけると、そこに降りて鑑賞を行う、というものだ。待合室で、準備ができるのを待つ。なぜか予定時刻から遅れ、10時半過ぎにOKの声がかかる。

飛行機は、定員5〜6名程度の本当に小さなプロペラ機だった。前部座席、パイロットの隣に一人座れるというので、志願した。自動車のようなシートベルトを装着すると、すぐに機は動き始めた。フォークランドでもこれぐらいの飛行機に乗った。あの時も思ったが、こういう飛行機は、びっくりするほどあっさりと地面を飛び立つ。ほとんど助走をとらず、本当に、ひょい、という感じで飛び上がる。

上空からの景色は綺麗だった。360度、雪に覆われたゆるやかな山岳地帯が広がっており、至る所に、凍った湖が白く大きな水たまりのように点在している。飛行機はほとんど揺れることもなく、ビデオでは安定した映像が撮れている。

もう30分ぐらい飛んだだろうか、なかなか降りていかない。群れが見つからないのか。だんだん焦ってくる。ここで駄目だと、また、ツキのない悲しい旅、というイメージが倍増する。アザラシもだめ、オーロラもだめ、カリブーも見つからない、では、ちょっと浮かばれない。機上からの壮大な景色を見やりながらも、心はどんどん暗く沈んでいく。

と、湖上に点々の影が見えた気がした。機が転回する。やっと、降りる準備に入ったようだ。とりあえず、群れが見つかったのだ。少し落ち着く。着陸態勢に入り、湖に一直線に向かうと、見えた。確かにシカのような動物達がいる。飛行機に驚き、慌てて逃げ回っている。何十頭いるのだろう。やがて飛行機が静止すると、彼らも動きを止めた。

冷たく澄んだ空気の中に降り立つ。足下に広がるのは、凍った湖である。風の音が響く中、カリブー達は静かにこちらに目を向けている。そのうち、群れがゆるやかに移動し始めた。湖面に積もった雪の上を、てんてんてんと、優雅に駆けてゆく。急いでカメラを構える。シャッタースピードは最速にし、動く彼らをなるたけ鮮明に捕らえようと試みる。ビデオも回した。しかし、途中でふと気付き、ファインダーから離れ、肉眼での観察に切り替えた。自分の目で見るという大事なことを忘れるところだった。一生懸命数を数えると、100頭ほどいることがわかった。群れは、最初にいた湖の端から、飛行機と僕等を避けるように遠回りにもう一方の端まで移動してゆき、もうだいぶ遠ざかってしまった。一緒についていきたいが、それだけの時間はない。
 やがて、パイロットが声をかけてきた。帰りの時間だ。もう少し近くに寄れたら、もう少し時間があったら、という望みは当然あったが、こういう形で見に来ている以上、制約は免れない。後で聞いたところ、これだけの数の群れに出会えたのはラッキーなことらしかった。とりあえずの満足感はあった。戻る機上からは、点々としたカリブーの群れの姿が、行きよりも多く眼下に見えていた。

  

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