Umbrella

<5>

 漏れる声は低く掠れ、触れる身体は程々に筋肉が付いている。
 紛れもなく男の身体。
 それなのに、しなやかに撓む身体は見るほどに艶めかしく、吐息すら甘く聞こえてくるのは何故だろうか。

「っ…ふっ…ふ、ぅ…っ…」

 噛み殺した声は、半分ほど脱がされた格好のシャツに吸い込まれていく。テーブルに背中を預け、揺さぶる度に大きく仰け反る白い首筋を、汗が伝い、まるで雨に濡れたようだとゾロは思う。
 甘い欺瞞に溢れた時間。
 それはそう長く続くものではなく、程なくして二人息を詰めたように熱を解放させた。



「おい……」
 さほど乱れる事のなかったゾロは、簡単に身支度を整え、テーブルからずり落ち、床に横たわったままのサンジに声を掛けた。そのサンジの方は、ズボンは膝に絡んだまま、シャツも片腕だけ引っかかった状態で、荒い息を整えている。
「おいって…」
 返事を返す事もなく、横になったまま気怠げに息を付いていたサンジの傍らに跪いた。顔を覆う髪を一房掬い上げる。マジマジと見た金の髪は、湿気を吸っても尚サラリとゾロの指からこぼれ落ちた。
「んだよ…」
 ゆっくりと身体を起こし、テーブルの脚に背を凭せかけ脱ぎ捨てたジャケットを引き寄せた。胸のポケットから煙草を取り出すと、慣れた仕種で火を点け深く煙を吸い込むと、隣にあるゾロの顔にその紫煙を吹き付けた。
「…っ」
 不機嫌に染まるゾロの顔に、サンジは小さく笑った。
「……何、考えてる?」
 乱れた姿のまま煙草を吹かすサンジに、ゾロは問いかけた。
 何を思い、自分をこんな事に誘ったのかと。
「…何も……」
「……」
「…なぁんにも……、考えてねぇよ」
 それだけを呟くと、青い瞳は目蓋の奥に隠された。
「そうかよ」
 ゆっくりとサンジの傍らから立ち上がり、シャワーを浴びようとキッチンの扉を開けた。

「あ……」

 サンジの小さな声が聞こえる。
 その声にゾロはふと立ち止まり、振り向いてサンジを見た。



「雨……」

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2002/12/17