CHANGE OF HEART
Kei Kitamura
<9>
一通りの片づけが終わってもゾロはキッチンには現れなかった。
テーブルの上にはゾロの為の昼食が置いてある。持って行かねばならないのだろうか。
−−オレのせいってのもあるしなぁ…
皿を仕舞いながら、ぼんやりとそんな事や、おやつと夕食の事を考えていたサンジは、静かに開いた扉に気が付かない。
「サンジ」
「うっわっ!」
急に聞こえた声に驚き、そこに立っていた人物を振り返った。そして、静かに発せられた声がルフィだと知って更に驚いた。
「な…なんだよ。気配消して入ってくんなよ、オマエ。おやつはまだだぞ。つか、今昼飯食ったばっかだろ」
「違ぇよぉ…」
「…ルフィ?どうした?」
大人しいルフィを怪訝そうに伺う。
−−よもやコイツが腹が痛いってことはねぇだろうし…それ以前にオレの料理で腹を壊すなんて考えらんねぇし。
「サンジはおれが嫌いか?」
「へっ?」
一瞬問われたことの意味が分からず、素っ頓狂な声を発してしまった。そして昼食前に言われた「好きだ」という「告白」に思い当たって、サンジは苦笑いを漏らす。
「嫌ってる訳ねぇだろ。何だよ、どうしたんだ?」
「じゃ、好きか?」
「ああ、好きだ、好きだ。てゆーかよぉ、急に好きとか嫌いとか…一体どうしたってんだよ?」
伸びてきた腕に腰を捕らわれ、サンジより少しだけ低いルフィに抱きすくめられる。というか、縋り付かれている感じだ。力は多分ルフィの方が強い。まだ大人に成りきっていない、少年の腕が背に回されてもサンジはされるがままにしておいた。
麦わら帽子を被った、怖いものなど何もないような、愛おしいキャプテン。
「ルフィ?」
「でも、ゾロの方がもっと好きなんだろ…?」
見上げる形でルフィの目がサンジを見つめた。
「な、に…言ってんだ?オレはナミさん至上主義だぜ?」
いつもの調子で軽く告げても、ルフィは真剣な表情でサンジを食い入るように見つめるだけ。
「違うだろ。だって…あんな風にゾロの名前呼ぶじゃねぇか、サンジ」
「あんな風って…」
普段は『クソ剣士』とか『腹巻き』とか、そんな風にしか呼んでいないはずで。
「ゾロの隣に自然に居るのはサンジだ」
「何言ってんだ。オマエの方がヤツとは付き合い長ぇだろうが。それにアイツはオマエを大事にしてるだろ…?」
ルフィが子供のように違う、と首を振る。
「ル…うわっ」
首を振り縋り付くルフィに、体勢を崩したサンジはルフィ諸共床に倒れた。
「クソ痛ってぇ…。ルフィっ!テメェ何してくれてんだ!」
「サンジ、こんな好きはおれ知らなかったんだ」
「おい」
覆い被さってくるルフィの顔が近づく。肩を押しても動かせない。
ルフィの力は思いの外強く、逆に力の入らないサンジの腕は震えているだけだ。心臓が早鐘のように鳴っている。
−−こんなのはイヤだ…っ
顔を背けたサンジの首筋にルフィが吸い付いた。
「ルフィ!!ヤメロッ、テメェ!」
「サンジが撃たれた時、弾取り出す時、熱が出て寝てた時、全部ゾロが居た。サンジ、オレの手…ゾロと間違えて、ゾロの名前呼んだ」
「っ!」
ルフィの舌がサンジの耳朶を嬲る。
「あんな声でゾロを呼んでるサンジなんて知らなかったよ、おれ」
耳の穴に舌を突っ込まれて、舐められてる音が響いて、サンジが身体を竦ませた。
なぁ、何なんだよ。こんなのは望んでねぇよ。
なぁ…今まで通りでいいだろ?
瞳の奥が熱くなり、サンジのきつく閉じられた目から一筋、涙がこぼれ頬を伝う。
「……めて…くれよ…。頼む…から…ルフィ……」
バタン、と音を立ててキッチンの扉が開かれた。
仏頂面で頭を掻きながらキッチンに足を踏み入れたゾロが、その光景を見て動きを止めた。
「ル、フィ?」
開かれた扉に驚いたサンジが慌てて顔を上げる。
驚く様子も見せないルフィは、ゆっくりとサンジの首筋から顔を上げ、ゾロを振り返った。
「ゾロ、邪魔すんなよ」
抑揚のない声でルフィが告げる。
そこに立っていたのがゾロだと見て取ると、サンジは顔を背けルフィの下から抜け出そうと藻掻いたが、ルフィの腕はがっちりとサンジを掴んで離そうとはしない。
「離…せっ。ルフィっ…!」
視線を合わせたまま動かない二人に気付くこともなく、サンジは一刻も早くここから逃げ出したいと、ルフィの手を剥がそうと躍起になっていた。
ゾロの拳が血管が浮き出る程強く握られているのとか。
ルフィの目が静かにゾロを見ているのとか。
何も気付かずに。
ゾロが、また何も言わずにこの場を出ていくのを見るのがつらい。
ルフィに組み敷かれているのを見られることもつらい。
サンジは耳鳴りが聞こえた気がした。眩暈と共に。
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2002/4/9UP
み…短い。でもココで続く。
どうなるのでしょう、コレ…。分からない。何だかみんな暴走してます。
いや、私が一番暴走しているのかも(爆)
*kei*