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CHANGE OF HEART

Kei Kitamura

<7>

 スキ

 キライ

 スキ


 朝食を済ませ昼食までの間、ゴーイングメリー号の船員は各々やるべきコトと、好き勝手なコトをする。
 ナミは航海日誌書きと海図の本を読む為に部屋に籠もるし、ウソップは船の傷んだ箇所の修理やら新兵器の開発に余念がない。ルフィは定位置の船首に座り、何を見ているのか、遠く海の彼方を眺めている。ゾロは午前中は稽古に励む。重いダンベルを振り回したり、腹筋やら背筋やら、とにかく身体を鍛えるばかりだ。
 そんな中、サンジはキッチンに籠もり昼食のメニューや倉庫の食料の保存状態などを考えつつ、何事にも備えて非常食を作っていた。しかし頭の中に渦巻いているのは、先程ルフィに言われた言葉。

−−スキ……たってなぁ……

 ルフィの『好き』は、捕らえどころが無くて、素直に受け止めていいものかどうかと、思考は迷路にでもはまったかのようにぐるぐると回るだけで、何の結論も出ないでいた。

「おい」
 不意に声をかけられて、不覚にもサンジは驚いて顔を上げた。
 いつドアを開けて入ってきていたのかも気が付かなかったが、日光を背に受けたゾロがドアの前に立っていた。上半身は裸で、シャワーでも浴びて来たのか、髪やその身体から水滴が落ちている。
「…んだよ、テメェか。稽古は済んだのかよ?水か?」
「あ、いや。あ〜…そうだな…水くれ」
 珍しく濁したようなゾロの返答に首を傾げつつも、サンジはコックを捻った。
 グラスに注がれた水に、手元にあったレモンを切って一切れ浮かべ、それをゾロへと差し出したが、入れ忘れた物に気づきその手を引く。
「氷を…」
「いや、いい」
 氷を取ろうと冷蔵庫の方へ向かうサンジを制し、グラスを受け取ると一気に飲み干し、そのまま差し出されていたサンジの手に返した。
「もう一杯くれ」
 そう言って、今度は冷蔵庫へ足を向けた。
 氷を持ってくるのを待ち、同じように水とレモンを入れた。
 グラスを受け取ったゾロは、キッチンの椅子に腰掛け、首からかけていたタオルで頭をガシガシと拭いている。
 そんな姿をサンジはぼんやりと目で追いながら、ゾロの言葉を反芻していた。

『ルフィはお前を好きだぞ』

 どんなつもりであんな事を言ったのだろうか。

−−ルフィの真意も、ゾロの真意も掴めない、こんな状態はゴメンだ

 テーブルに置いてあった煙草を一本抜き取り、火を点けた。深く吸い込み、紫煙を吐き出す。脳にニコチンが染み渡り、靄が掛かったように渦巻いていた思考が一気にクリアになった。
「何でオマエが言うんだよ…?」
「は?」
 ゾロは、問われたことの意味が分からず、視線を合わせないサンジの横顔を見た。
「何で、オマエがあんな事を言った?」
「あんな事って?」
 本気で分からないと云った風情のゾロに、サンジのイライラが増す。
「ルフィがって…オマエあの時言ったじゃねぇかよ?!」
 語尾を荒げ、ゾロに向き直るサンジの顔は、不思議と迷子になった子供のようだ、とゾロは思う。怒っている、と云うよりは困惑していると云った表情だ。
 その事に思い当たったゾロは、
「ああ…」
 とため息を漏らすと、またタオルで頭を掻いた。
「お前には…もしかしたら聞こえてねェんじゃねェかと思ったんだが…」
「んだよ。聞こえてねぇ方が良かったのかよ?」
「そうだな」
 そんなゾロの淡々とした口調に、益々サンジは苛立った声を出す。
「そうだなって、テメェ…自分が言った言葉には責任持てよっ!」
「ルフィにも言われたよ」
「え?」

−−ルフィにも?

「どうゆーこった?」
 ゾロはサンジの手にある煙草を奪い取り、アッシュトレイに押しつけた。
「『何でゾロがソレを言うんだ』ってな」
「…っ!」
 グラスを持ち上げ、グイと飲み干して立ち上がると、サンジの目の前に立ち、その大きな手で傷の残るサンジの肩をそっと撫でた。
「傷の具合はいいのか?」
 はぐらかされたような気がして、サンジはその手を払うと、凄味を効かせてゾロを睨み付けた。
「質問に答えろよ!テメェはどうしたくて、んなコト言ったんだよ?!単なる好奇心か?!ただのお節介か?!」
「……」
「何なんだよ?!好きって…なんだよ。どう受け止めりゃいいんだよ?!テメェもルフィも分からねぇよ。それだけ言って、その先は何も言わねぇんじゃ、オレはどうすりゃいいか分からねぇだろうがよっ…」
 そこまで言った時、ゾロの手が傷を負っていない方の腕を掴んだ。
「ってぇな!離せ!クソハゲ!」
「ルフィも…って言ったか?」
「ああ言ったさ!ルフィだって『サンジが好きだ』っつって、その先は何も言わねぇ。何だよ、ありゃ?好きです。はい、ありがとよってコトでいいのか?なぁ、オマエが知ってんだろ?教えろよ?オレはもう訳が分からねぇ…」
 サンジを掴んでいた手を離し、ゾロはまた無言になる。
 ため息と無言。
 そんなコトだけでサンジの心がグラグラと揺れるのを、ゾロは気づいているだろうか?
 ルフィの想いに答えろと…そう、ゾロは言いたいのだろうか。ゾロに向かっているこの想いをルフィに向けろと、そんな風に思っているのだろうか。

−−なら何故…ゾロはオレを抱く?

 人肌が恋しいと…それだけの理由で抱かれていると思っているから?
 暖めてくれる相手なら誰でもいいと、同情で、只の処理でゾロは自分を抱くのかと、胸が軋む。
 ギシギシと音を立てて、胸が軋む。

 ゾロはサンジを見ないまま考え込んでいた為、サンジの状態に気が付かなかった。

「…んで……く?」
「何?」
 視界が揺れるのは、船が揺れてるから?

 ギシギシと足下から音がするのは、船の軋み?

「何で…オマエはオレを抱く…?」

 小さく呟かれた言葉にゾロが目を見開いた。
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2002/3/14UP

ちょっとサンジBD祭り期間でこっちの更新が滞り気味でしたね…。
そしてこんなところで続く…。ぐぁ〜…。裏に持っていくハズの<7>が、全然表じゃん!
がっくし…。
*kei*