CHANGE OF HEART
Kei Kitamura
<6>
キッチンから漂ってくる、暖かいスープの匂い。
それはここ暫く感じることの出来なかった……。
ルフィは見張り台から慌てて飛び降りると、その所在を確かめるべくキッチンの扉を勢いよく開けた。
「サンジッ!!」
「おぅ。クソキャプテン。もう腹減ったのかよ?」
コンロの前には、砲弾を受けてここ数日寝込んでいたこの船のコックが、朝食の準備中だった。いつものようにシャツの袖を捲り、エプロンをかけた姿の、サンジの姿がキッチンにある。
「サンジ、サンジ、もういいのか?!」
「ああ、心配かけたかよ?悪かったな。もうどうってことねェよ」
ニッコリとルフィに笑いかけるサンジには、あの苦痛を堪えていた時の表情はない。
「サンジィィ〜!!」
「うわっ!」
「サンジのメシが食える〜っっ!!」
「いっ!!飛びつくなっ!このクソゴム!」
「悪ィ」
喜びのあまりか、ルフィに飛びつかれたサンジは、フライパンの中身を死守する為に体勢を整え損ね、そのまま床に尻餅をついてしまった。謝ったもののちっとも悪びれずニーッと笑うルフィの頭を、ぐしゃぐしゃと掻き回し、首に引っかかっていた麦わら帽子をその頭に被せてやる。
「おら、もう少し時間かかるから座って待ってろ」
サンジは腰に絡みついたままのルフィを引きはがそうとした。そのサンジの手をものともせず、余計に絡みつく腕に力を込めて、ルフィは腹に顔を埋めた。
ルフィの子供じみた行動に苦笑いを零し、手にしていたフライパンを床に置きルフィの背中をあやすように軽く叩いてやる。
「どうしたんだよ?」
「おれ、何もしてやれなかった」
「ルフィ?」
しがみつく力を緩め、見上げるように顔を上げたルフィが呟いたのは、とてもクリークを倒した彼の言葉とは思えないようなもので。
「サンジが撃たれても、海に落ちても、助けることも出来なかった」
悔しそうな顔で、サンジを見つめたままルフィが言葉を続ける。
−−ああ…コイツは其れを隠すことはしないんだ…
悔しい時は悔しいと。
嫌な時は嫌だと。
真っ直ぐな彼は、こうして想いをぶつけて来るのだ。
「何で笑ってるんだ?」
ふっと思わず漏れた笑いにルフィが大いに不満そうな声を出す。
「ああ、悪ィ。そうじゃなくてよ…なんつーか、いいじゃねェか、無事だったんだしよ。オマエが気に病む事じゃねぇ。これはオレのミスだ」
傷を負った肩を見る。
「気づかなかった、避けられなかった、オレのミスだ。それにオマエはちゃんと何かをしてくれてたじゃねぇか」
「おれが?」
きょとんと目を丸くしたルフィを引きはがすと、サンジはフライパンを持って立ち上がり、火が点いたままのコンロへ其れを置いた。座り込んだままのルフィに手を差し延べると、まだ少年の、でも力強いルフィの手がそれを取り、立ち上がった。
「ずっと付いててくれてたんだろ?」
「うん」
「それに、オレにはオマエに借りが山のようにあるからな。チャラって訳にもいかねぇような、さ」
「借り?」
首を傾げるルフィに背を向け、再びコンロに向かう。
「バラティエ出る時に、手を伸ばしてくれたろ?」
「それはサンジが決めた事だ。おれは何もしてねぇぞ」
不服そうにルフィが言う。
−−オマエがそう思ってなくても、な…
「そうかもな。でも…ま、いいや。とにかくもう治ったんだから、気にするこたぁねぇよ。それよりメシ出来っからナミさん呼んで…」
その言葉を言い終わる前に、後ろから伸びてきた腕に絡め取られてしまった。背後から抱き締められて驚いて振り向いた時には、既にルフィはサンジから離れ、ドアへと向かっていた。
「ル、フィ?」
「起こしてくんだろ?そしたらメシだな!」
ドアを開けて入ってきた時と同じ勢いで出ていくルフィを唖然として見た。
出ていったと思ったルフィがひょい、と顔をキッチンの中へ戻して
「おれ、サンジが好きだ」
それだけ言うと、ドタバタと足音をさせて出て行った。
「へ?」
サンジは、暫く呆然と誰の姿も見えないドアを見つめていた。
『メシだぁぁぁ〜!』
と、遠くから聞こえたルフィの声に我に返ると、フライパンの中身はブスブスと音を立てて焦げていた。
「うわっち…!」
慌てて火を止め中身を取り出すが、そこに残ったのは消し炭のような物体。
−−……なん、だったんだ、今の?
不意にゾロが言った言葉を思い出す。
『ルフィはお前を好きだぞ…』
「マジかよ……」
サンジの呟きは、キッチンに揃ったみんなの声に消されていった。
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2002/3/5UP
ほら、うっかり1ヶ月も放置プレイしちゃってたし…。ぐはっ…。すみません。
そして、続く…。短いですね。
でも、ルフィ告白したし!次はゾロとサンジかな。
*kei*