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CHANGE OF HEART

Kei Kitamura

<2>

 いつものように船首に身体を預け、ルフィが頭を撫で擦りながら手摺りに凭れたゾロに視線を合わせ、呟いた。
「なぁ、何でサンジあんなに怒ったんだ?」
 呆れたような顔で手にしていたグラスを傾ける。
「怒ったっつーか…呆れてたんだろ」
「何でだよ〜!オレ何かしたか?」
 邪気のない顔でガバッと身体を起こし不安定な船首に座るルフィに、ゾロは頭を抱えた。
 静かな海とは言え、揺れない訳ではない。穏やかな波が船を揺らし、そこに吹く風はハタハタと海賊旗をはためかしていた。空は青く、暫く戦闘もないのんびりとした旅になってはいたが、この船長ののんきな態度には、思わず苦笑いが漏れてしまうのは、ゾロだけではなかった。
「食べすぎ、飲みすぎなんだろ」
「だって腹減ってたんだ」
「つか、その前に何かやってただろ、お前」
「うん。サンジが旨そうな匂いしてたからちょっと舐めてみようかと思って、齧り付いてみた」
 舐めてって齧ってんじゃねーじゃねーか…と心の中で思ったが、問い詰める問題点はそこじゃねーだろ…と、ゾロは自ら突っ込みを入れてしまった。
「なぁ、サンジ旨かったぞ!!甘いんだ、何でかな?」
 無邪気にとんでもないことを言うルフィにギョッとする。

−−…そんな事は知っている

−−知っている…?

 他愛もない会話を交わしながら、ゾロは心に小さなさざ波が立つのを感じていた。モヤモヤと胸の奥に巣食う感情が何なのか分からずに。


***************

「ナミ」
「何?食べ物ならないわよ。少しは自粛しなさい」
 デッキチェアーで寛ぎながら新聞に目を通しているナミに、ルフィが声をかけた。ナミは新聞から顔を上げることなく、端的な言葉を返す。
 無言でそこから去ることをしないルフィを訝しんだナミが顔を上げると、少し考え事をしているような顔でただ立っていた。単にお腹が減っただけだと思っていたが、いつもにない表情にナミは驚いてしまった。滅多に考え事をするような彼ではない。いつだって感情の赴くままに行動するルフィがあまり見たことのない表情で立っている姿は、なかなか面白いものがある。
「どうしたの?また盗み食いしてサンジくんに怒られたんじゃないの?」
「ん。怒られるのは怒られた。でも盗み食いはしてねーぞ」
 口をへの字に曲げて子供のような表情をしたルフィに、そっと笑うと新聞を閉じて改めて向き直った。
「何よ。どうしたの?悩み相談なら一万ベリーで受け付けるわよ」
「さっきな、サンジがあんまり旨そうな匂いしてるから、サンジ旨いのかと思って齧りついたんだ」
「……」
 一瞬の間を置いて、ナミが思わずといった様子で吹き出した。腹を抱えて身体をくの字に曲げ笑い転げるナミにルフィは、そんなに可笑しいことか?と首を傾げた。
 涙を浮かべ、笑いの収まらない状態でナミはルフィの肩をバンバン叩いた。
「あはははは…で、怒られたの…っくっくっくっ…」
「別にそれで怒られた訳じゃなくて…その後ゾロが入って来て…」
「何?ゾロもいたの?で、何で怒られたのよ?」
 笑いを何とか沈めて、ルフィの話の先を促すが、一向に進まない。
 怒られたくらいで、こんな考え込むようなルフィではない。では何をこんなに考え込んでいるのだろうか?面白いネタが手に入るかもしれない、と耳を傾けていたナミは段々焦れてしまっていた。
「だから、ルフィは何がそんなに気になるの?」
「分かんねぇよ。この辺がぐちゃぐちゃしてんだ」
 そう言うと赤い服の胸元を、日焼けした、まだ少年の手でギュッと掴んだ。

 …これは面白い!!
 …何?ルフィが…って事よね?
 …面白い。面白過ぎるわ!!

 ナミは顔から笑いを消して、ルフィをまじまじと見つめた。
「ルフィ、ゾロの事好き?」
「おう!好きだぞ!」
「そうよね。じゃサンジくんは?」
「好きだ!オレはサンジの作ったメシが一番好きだ!」
「ああ…そうね。アンタは全員が好きなのよね」
「そうだ!みんな仲間だからな。ナミも好きだぞ」
「ありがと。でも、その好きに違いはある?」
 鈍いわ。ゾロ以上に、こと恋愛に関しては鈍すぎる。
 なんて面白いのっっ!!
「違いって何だ?」
 キョトンとした顔で尋ねてくるルフィに笑いを噛み殺せなくなったナミが更に盛大に吹き出してしまった。

 …ああ、楽しいわ!
 …これで暫く遊べるじゃない。退屈しない船よね〜…

 笑い転げるナミにルフィは更に首を傾げたのだった。

***************

 ナミがまだ笑い転げている時、サンジのおやつ作りはキッチンの中で続いていた。ムカムカした気分のままではナミさんに食べていただく自分の満足のいくおやつは作れないと、一服して心を静めようとタバコに手を伸ばした。このムカムカは何が原因なのか、と考えを巡らせながら。

 ジュースは上手く作れた。
 昼食も誰も残すことなく、全部食べてくれた(ルフィが食べつくしたのだが)

「…つ〜かよぉ…何だったんだよ、あのクソゴム」
 ルフィに噛み付かれ舐められた首筋を、サンジの白く細い指が辿る。歯形の付いた其処は少し熱を持っていて、チクリと痛む。
 覚えのある熱に身体が反応してしまった事が、サンジの不機嫌の原因だったが、それを認める事が悔しい気がして、更にイライラが募っているのだった。
 しかもゾロはゾロでルフィに抱きつかれているサンジの姿を見ても動揺することなく、淡々と自分のしたい事だけをする、そんな態度にも腹が立っていた。

 −−別に…身体を重ねただけだから、そんな甘い関係じゃねぇけどよぉ…

 −−なんかあんだろ?!

 何かと言えば、ルフィ優先のゾロにサンジは呆れていた。

 腹が減ったといえば、自分の分を渡すし。
 ルフィの言うことなら何でも聞くし。

 死の淵に立っていた時のルフィとの約束。

 −−分かってたさ。分かってる。

 勝手にグルグルとめぐる思考を止めて、サンジはコンロに向かった。料理をしている間は、食材のこと、料理のこと、それだけを考えていられる。そんな事を思いながら、頭の中を占めている自分にもまだ分からない感情を打ち消した。


 それぞれの思いを乗せて、夢に向かい船は進む。
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2001/12/16UP

え〜と…続きます。
変だ…ルサンなハズなんだけど……。
ルサンです。ルサン!頑張ってルサンにするぞ〜!!お〜!
*kei*