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Blue Rose

Vol.5

「兄さん!採れたての果物はどうだい?新鮮だよ!」

「ほら、この野菜をご覧よ。瑞々しいだろ?買っていかないかい?」

 一歩街へ足を踏み入れると、港に人が居なかった事が嘘のような人混みだった。
 活気溢れる街は、露店が軒を並べ豊富な野菜や果物が溢れ、呼びかける声も飛び交っている。
「ふぅん…」
「凄い人だな、サンジ」
 キラキラと目を輝かせ、キョロキョロ辺りを見回しているチョッパーは、姿を人型に変えていた。
「そうだな。これなら食料を調達して帰ってもよさそうだ」
「買い物するか?オレ手伝う?」
「んー…そうだなぁ。買いたいモンあんだろ?しょっちゅう怪我人が出る船だからな、薬や包帯買いてぇってたよな?」
「うん。でも、それはサンジの買い物のついででもいいんだ」
 ゾロにサンジを見ていろ、と言われた事を思い出しながら、チョッパーはちらりと隣を歩くサンジに目をやる。機嫌良さそうに並べられた果物を見ている姿は、いつもと変わりがない。ナンパとやらもきっと人間のオスならよくあるような事なんだろうとチョッパーは理解していた。
「そっか?じゃ、先にそっち寄ろうぜ。食料は後の方がいいからな」
「うん」
 盛んに声を掛けてくる強面の店主にサンジは声を掛ける。こんな顔じゃ客も寄って来にくかろう、とサンジは思ったがバラティエの厨房に居た面々も同じようなご面相だったと思い出した。
「おい、オヤジ」
「へいへい。何が入り用だい?何でも揃ってるぜ」
「ああ、それはまた後から寄るから、薬屋ってこの辺にあるか?」
「薬屋?ああ、その先の角を右に曲がって3件目にあるよ。帰りに必ず寄ってくれよ」
「ああ、分かった」
 強面の親父は、ご面相に反して愛想が良く親切に道を教えてくれ、それに軽く手を挙げると、きっとだよ!と背中に声を掛けられた。
「怖そうな人だったけど、親切だったね」
「ああ、人間顔じゃないぜ。ウソップみたいな顔だって、イイヤツだろ?嘘つきだけど」
 軽く肩を竦め真面目な顔でそう言うと、うふふ、とチョッパーが笑った。
「まぁ、野郎の顔なんかオレは興味ねぇし。どんなツラしてたって、別にどーって事ねぇしよ。それよりいつだってオレはナミさんやロビンちゃんの麗しい顔を眺めていたいぜ」
「ナミやロビンは綺麗なのか?」
 チョッパーの素朴な問い掛けにサンジは暫く動作を止める。銜えていた煙草を思い切り吸い込み、長く繋がっていた灰が落ちた。
「…そりゃ綺麗だろ?トナカイの審美眼はどうなってんだ?つか、レディは誰だって綺麗なんだよ」
「人間の顔の事はやっぱりよく分からねぇ。でも、綺麗ってのはドラムで見たあの桜の事を思う時と同じような気持ちの事なんだろ?それなら、あの船に乗ってる全員の目は綺麗だと思う」
 益々サンジの目が呆然と見開かれていき、長くもなく短くもない間を置いて笑い出した。
「な、なんだよ。オレ変な事言ったか?間違ってた?」
 腹を抱えて笑い出すサンジに、今度はチョッパーの方が面を喰らった。
「あはは…や、いや、変じゃねぇよ。ふはは、そ、そっか。いいんじゃねぇか、間違ってる事じゃねぇよ」
「ちぇーっ。なんだよぅ、もう笑うなよ!」
 プンプンとむくれ出すチョッパーに、笑いながらではあるが、先を促す。取りあえず、薬屋と食料の調達は二人に課せられた使命だったので。
「目と言えば、サンジの右目も綺麗だよ。でも、左目は見たこと無い」
 むくれていたかと思えば、急にそんな事を言い出した。
「どうなってるの?見えないの?オレ、治療する?」
「あー…左目からはレーザービームが出るから、オマエにゃ治療出来ねぇな。治療する傍から怪我するぞ、きっと。まぁ、治療ったって、別に痛くねぇから良いんだよ」
 そう言いながら、そんな事を以前ゾロにも話をした事を思い出す。
「ええっ?!そうなのか?!」
「おう。だからもう気にすんな。治しようがねぇしな」



 そうだ。
 治しようが無い。


 自ら望んで片目を閉じているのだから。


 見える物

 見えざる物



 −− ま、見え過ぎるとロクな事はねぇし

 −− ああ、でも、オールブルーは、両目でしっかり見てみてぇな…

 願わくば…




 薬屋に用の無いサンジは、店の外でぼんやり取り留めの無い事を考えていた。そんな時、視界の隅に見覚えのある服を見つけ、そちらへ目を向けるとロビンが本を抱えて斜め向かいの店から出てきた所だった。
「ロビンちゃん!」
「あら。コックさん。どうしたの、こんな所で」
 ロビンの居る所へ駆け寄ると、港に着いた瞬間に消えていた自分の事は忘れた事のように、問い掛けられる。
「ああ、オレは買い出しで…って、ロビンちゃんこそ。急に居なくなってるからビックリしたよ。どうしたの?本屋?」
 手元には読み古された分厚いハードカバーの本があった。普段ロビンが手にしている物では無いという事は、どこかで入手してきたのだろう。
「ええ。島の古い文献の中に面白い物を見つけたから」
 愛おしげに本の背を撫でる指に、サンジは目を奪われる。
 同じような光景を幾度と無く目にしている。
 それはナミが海図を書く為のペンだったり、ルフィの麦わらだったり、ウソップのゴーグルだったり、チョッパーの帽子だったり、ゾロの、白い刀だったり。
 みんながそれぞれに大切な物に触れる時の指使いと同じく、ロビンは本を愛おしげに撫でる。
「へぇ。ロビンちゃんが探してる物に近づいた?」
「ふふ。違うわ。でも、ちょっと面白そうな話」
「面白そうな話って…?」
「サンジ、お待たせ」
 必要な物が揃ったのか、ニコニコしながらチョッパーが店から出てきた。
「あ、ロビン。ドコ行ってたんだ?」
「ああ、二人でお買い物だったのね」
 話の途中だったが、ロビンは船に戻ると言ってその場を後にした。特に引き留めて聞くような事でもないだろう。ティータイムの話題にでもしようと、サンジはその背を見送った。
「必要なモンは買えたのか?」
「うん。いっぱい買えた。これでいっぱい怪我しても良いぞ」
「怪我はクソ剣士とクソゴムに任せるわ。んじゃ、レディ達の食料と野郎共の餌の買い出しすっか」

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2004/7/24UP


ほんっとーに、進まないです、この話;;

今更かもしれませんが、「Blue Rose」とタイトルを決めたのはいいのですが…
書く時の脳内テーマソングは某X(Japan)の「Rose of pain」です。
「Blue Blood」じゃないです(当たり前だ)
なのですが、果たしてこのテーマソングが正しかったのかどうか、
今じゃなんだか怪しいです(爆)


どうですかね、「Rose of pain」は『苦悩の薔薇』と訳すのでしょうか?
どんな薔薇やねん!!
…最初はヴォイスレス・スクリーミング…とかも聴いていた気がします。
書いている最中。
どうしても古いバンドから抜け出せない私。
「Rose of pain」も好きだし「Art of life」も好きです。
前者は12分くらい?後者は30分くらいあります(笑)

*Kei*