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Blue Rose

Vol.4

 船は小さな島に着いた。
 船は何艘か碇泊しているものの、港周辺には人気はない。この分なら見た目ではとても海賊船に見えないこの船を停めても特に問題はないように思える。それでも一応海賊旗を掲げている限りは、いつ何時海軍に見つかるとも限らない為、メリー号は港近くの岩陰に着岸させた。
「んー、小さい島だけど、ログが貯まるまでどれくらいかかるのか分からないわね。サンジくん、買い出しする物ある?」
「うーん。そうだな。取りあえず補充出来る物は補充しておいた方がいいかな。次の島までどれくらいかかるのか分からない場所だし、補充出来るならしておきたい。でけぇネズミが数匹いるし」
 ナミは少し考えながら、今にも船を飛び降りそうなルフィの首根っこを捕まえた。
「分かった。買い出しはサンジくんだけで行ってくれる?」
「了解」
「で、私はログがどれくらいで貯まるのか、調べて来る。その結果如何で行動は決めましょう。みんなはそれまで船で待機」
「狡いぞ、ナミ!!」
「うるさい!」
 ジタバタ暴れるルフィの頭にゲンコツを落とす。
「ナ…ナミ」
 おどおどチョッパーがナミの足下に近づいて来た。
「何?」
「おれも薬とか、包帯とか、買い足しておきたいんだ」
「…そう。じゃ、サンジくんと一緒に行ってらっしゃい」
「うん」
 チョッパーは嬉しそうに笑いながらサンジを仰ぎ見した。少し不機嫌そうなサンジの顔にチョッパーは嫌だったのだろうかとドキリとした。一瞬笑みを凍らせたチョッパーに慌てて笑みを向けた。誤魔化すように眉間に皺を寄せ、ナミに視線を戻す。
「でも、ナミさん。ナミさん独りで調べるのは、危なくねぇか?まだ、どんな街か分からないぜ?」
 先程の表情はナミの心配をしていたのかと、チョッパーはホッとする。
 そんな一部始終を見ていたゾロも、同じような事を思っていた。
 サンジの心配を余所に、ナミはヒラヒラと手を振り溜め息を付く。
「大丈夫よ。どうせ途中まではサンジくんたちと一緒するから。それにルフィを連れてったら間違いなく騒ぎの元を作ってくれるし」
「冒険ーっっ!!」
「ゾロなんか連れて行ったら迷子になられて迷惑だし」
「…テメェ…迷子言うな!!」
「ウソップは一緒でも独りでも変わらないようなモンだし」
「うわーっ!!お前サラリとすっげぇ失礼な事言ってるぞ!!俺様の戦闘能力を過小評価し過ぎてる!!おいっ!聞いてんのかっ?!」
「ロビンも…って、もうロビン居ないし…」
 がっくり肩を落とすナミにそれぞれ苦情を述べたが、うるさい、の一言でバッサリ切って捨てられた。
「とにかく!私が戻るまで、アンタたちは船番。分かった?!」
 不承不承、三人は船に残らざるを得なかった。
「ちぇー。おれが船長なのに〜」

「う、る、さ、い」

 まだ文句を言い続けているルフィに再度ゲンコツを与え、ナミは垂らされた梯子に足を掛ける。その横からサンジがトンと小さな音を立て飛び降りた。まるで猫のように身軽に、大した衝撃も受けた様子もなく着地する。続いてチョッパーが梯子に足を掛けた時、後ろからひょいと抱えられた。
「わ!な、何だ?」
「チョッパー、アレから目ぇ離すなよ」
 太い腕はゾロの物で、真剣な顔でそう言われたチョッパーは、驚いて目を見開いた。
「え?アレって…サンジ?」
「ああ」
「なんで?サンジどうかしたのか?」
 心配顔になるチョッパーを降ろし、帽子の上から頭を軽く撫でる。
「どうもしねぇよ。すーぐフラフラ女の後着いてくだろ、アレは。お前が一緒なら止められんだろ」
「ああ、そういうことか。分かった」
 納得して、ニッコリ笑う。
「チョッパー!置いてくぞ!」
「い、今行く!!待って、サンジ!」

「あー、行っちまった〜」
「あっ!!昼飯とかどうすんだ?!サンジ作ってくれてんのか?!」
「知るか…」
「サーンージー!!昼飯はーっ?!」
「あー?作ってある。探してみな。見つけられたら食って良し!ただし、昼まで待てよ、クソゴム船長!」
「分かった!!」
 本当に分かったのか、返事をするなりキッチンに駆けていくルフィの後を追って、ウソップも駆けていく。
 ゾロは港から港に続く道を歩く三人の姿をぼんやり見ていたが、強い風に頬を撫でられ、それをキッカケに裏甲板へ向かった。
 日々鍛錬。
 今は気にするのを止めよう、とゾロは鉄の串団子(サンジ命名)に手を掛けた。

 −− チョッパーが一緒だから、奴もそうそう女のケツばっかり追ってらんねぇだろ

 恐らくはそれだけが心配だったのではない。
 数日前から、どうもサンジの体調が良くないように見えた。大したことは無いと本人は言うし、チョッパーにも特に診せてないようで、気のせいかと思ったのだが、どうにも気になる。
 サンジの怪我はいつでも、表面からは分からないことが多い。

 −− 分からねぇ…

 サンジの行動や思考はゾロには理解出来ない部分が多々ある。
 思っている事や考えている事と正反対の行動に出たり、そのくせ屈託無く笑っていたり。恩着せがましい言葉を言う割に、それとは分からないように、気付かれないように世話を焼いていたり。

 −− ほんっと、分からねぇ

 夜の、いかにも相手をしてやっていると言った風な態度にも、最初のうちこそ単なる性欲処理なので構わないと思っていたが、身体を重ねるうちに少しの苛立ちを感じるようになっていた。
 終わった後、取り留めのない事を喋るサンジの声は低く掠れ、間違いなく男の声なのだが、微妙な気怠さと艶を含む。それが心地よく、聞くともなしに聞いている。

−− 青い、薔薇…

 そんな事を数日前話していた事を思い出す。
 薔薇が見たいのか。それともその薔薇が咲くという島に興味があるのか。
 あるいは…。



 気に入らない。
 何が気に入らないのか。
 分からない事が?

 分からないと思う事は、相手の事を知りたいと思っている事。
 知りたいと思うという事は、相手の事が気になるという事。



「ウソップ!!早く解けよ!!」
「分かってるから、急かすなよ。コレが多分みかん畑だろ…」
 騒がしい二人の声に思考を断ち切られる。
「…何やってんだ、お前ら」
「昼飯探してる!宝探しみてぇで面白ぇ!!」
 ニカッと笑うルフィの言葉の意味が分からず、ウソップに目を向けると紙切れを持ってブツブツ呟いていた。
「何の事だよ?」
「サンジがよぉ、昼飯の隠し場所を暗号文にしてんだよ」
「はぁ?」
 そりゃ手間の掛かる事を、と思ったが、確かにこの船長では隠しでもしなければ即座に食われてしまい、昼まで持たないだろう。
「ウソップ〜!早くしろよ〜!」
「お前も少しは考えろよ。つか、お前の桁外れの嗅覚を持って探しだせ!!そっちが絶対早ぇ!」
「おお!!その手があったか!!よーし、探すぞ〜!」
 騒がしく駆けていく姿に、ゾロは手にしていた鉄アレイをゴトリと床に置いた。汗が額から流れて床を濡らして行く。
 喉の渇きを潤そうとキッチンを開いて、そこにサンジの姿を見つける事が出来ず驚いた。
 否。
 サンジの姿が無い事でショックを受けた事に驚いた。
 それ程までにこの場所はサンジの居場所なのだと、思い知らされた。
 稽古の後に自然に差し出される水。
 チョッパーが言っていた事が、少し分かった気がした。

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2004/5/12UP



参った…。進まない。どうしましょうか…。

*Kei*