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Blue Rose

Vol.6

 歩を進めた所で、曲がり角から見慣れたオレンジの髪がサンジの肩にぶつかった。
「きゃっ」
「あ、ごめんっ!…って、ナミさん?」
「ああ、サンジくん。買い物終わったの?」
、ハッとした顔をしたナミに、サンジは荷物を持っていないと両手を軽く拡げた。落ち着かない様子のナミに、追われているのかと思ったが、逃げている様子では無い。
「や、まだこれからなんだけど。何?急ぐの?」
「いえ、そうじゃないんだけど。やたら治安がいいのよね、この街」
 ロクに稼ぎも出来ない、と小さく呟いたのは聞かなかった事にしよう。
「ログはどれくらいで貯まりそう?」
「2日ってトコ。陸に宿取ってもいいかもね。ちょっと当たってみるわ。買い物が済んだら船に戻って来てね。それから宿に向かう事にしましょ。チョッパーも荷物持ちお願い。じゃ、また後で」
「うん。ちゃんと手伝うぞ、おれ」
「了解…っと、ナミさん」
 背を向けて歩き出したナミに、慌てて声を掛けた。
「何?」
「財布、返してくれなきゃ」
 苦笑しながら手を差し出す。
「あら、やだ。つい癖で」
 ナミはカラカラと笑いながら、財布をサンジの手に置き、よろしく、と言って軽やかな足取りで歩き出した。
 先程のちょっとした接触で、サンジの懐から財布を抜き去っていたナミの鮮やかな手つきは衰えていない。あれで荒稼ぎをしているのかと、苦笑いが漏れた。
 もう死にものぐるいで金を集める事はしなくても良くなったと言うのに、金がない事の苦しさを知っている彼女は、金に対しての執着が半端ではない。過去の自分に重なる部分が見え隠れする。
 どれだけ持つか分からない船旅の食材や水。それを考え始めると限りない迷宮に嵌り込んでしまう事が分かっているので、敢えて考えないようにしている。考えないように、とは言っても、食材の管理は徹底しているつもりだ。ただ、あの船にはネズミが多くて困る事が多々起こるのだが。
「ナミ…すげぇな。いつの間にサンジの財布取ったんだ?」
 感心したようなチョッパーの声に、サンジは肩を竦めた。
「それがナミさんのスゲェところさ。さて、船番の奴らも暇こいてるだろうから、サクサク買い物して早く戻ろう」
 活気溢れるバザールの街並みに戻り、道を教えてくれたオヤジの所で野菜や果物を仕入れる。肉屋も軒を並べていたので、肉も仕入れる。ルフィが喜ぶだろう。酒屋に寄って、樽ごと酒を買う。それでも足りないだろう事は、毎晩のように晩酌をする輩がいるので分かっている。小分けに飲めるような瓶酒も仕入れる事にする。
 頭の中で買う物を纏めていく作業は、サンジには普通の事で、その他にその食材を使った料理のレシピも一緒に考えていく。
 一通りの買い物を終えて船へと戻る途中、花を見掛けた。



 青い、花。



 風に揺れる小さな花は、群生している訳ではなく、ただポツリと一輪其処に咲いていた。
 手折ってしまうにはあまりにも儚く、時折吹く風にその身を任せるままに、ゆらゆら揺れている。
「サンジ?」
「あ、ああ。悪ぃ」
 足を止めて食い入るように花を見ていたサンジに、チョッパーが怪訝そうな声を掛けてきた事で、サンジは歩き出した。
「花がどうかしたのか?」
「…何でもねぇよ。ナミさんにどうかなーって思ったけどよ、でも一輪じゃどうしようもねぇよな。可哀想だし」
「うん。でも、綺麗な花だね。何て言う花だろう」
 心臓の音がうるさい。
 チョッパーが何事か話している声も、遠くに聞こえる程に。
「チョッパー」
「何?」
「さっきの、花…」
「ん?」
「さっきの花、青かったよな?」
「え?花の色?」
 サンジの顔から笑みが消えている事に、チョッパーは今気付いた。視線を合わせず前を向いたまま問い掛けられる内容は、何の変哲も無い普通の花の事で、何がそんなに気になるのだろうかと首を傾げる。
「赤い花だったよ?」
「え?!」
「青、じゃなくて、赤い花だったよ?サンジは青に見えたの?変だな?おれの目がヘンなのか?」
「赤………そうか…」



 小さな赤い、薔薇。

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2004/10/9UP



あああああー進まねぇー…
ココで切るか?!…スミマセン;;
あ、ちなみに、サンジが色盲とかじゃ無いですよ?(笑)

*Kei*