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Blue Rose




I'm drawning in sadness

Falling far behind

I feel there is just no way out


Is there anyone there ? Where am i ?



− Sanji −




 ごく自然な成り行きで身体を重ねるようになった。キッカケが何だったかなんて、もう憶えてもいない。互いに引き寄せられるように唇を合わせたのが、随分と前の事に思えるが、実際はほんの数ヶ月前の事。

 大抵ゾロはセックスの後ゴロリと横になり、そのまま眠りにつく。気を失う程セックスに溺れている訳ではないので、息が整うのを待ってサンジは一本の煙草を吸い、ゾロをそのままに格納庫から出て行く事が常だった。

 処理。

 そう、それはセックスと呼ぶより処理に近い気がする。
 相手が男だろうと女だろうと、サンジにとっては身体を繋げる事は大した事ではなかった。それよりも肌に触れていたいという思いの方が強い。
 温もりを感じていたい。
 それが全てだった。


 都合の良い相手がゾロだったと言うだけ。
 そうでも思わなければ、あの男の重さに押し潰されてしまう。
 ゾロの槍はとても自分には背負えない。
 強さも、優しさも全てひっくるめて受け止める余裕が、今の自分にはまだ無い。



 心の裡に溜まった澱のような思いが、時折溢れそうになる時がある。



 ドロドロと身体の底で蜷局を巻く、狂気にも似た……






−−聞いてねぇと思ったのによ…

 独り言のような、それこそ戯言のようなサンジの話を、いつも寝入ってしまうゾロが聞いているとは思ってもみなかった。
 居心地が悪くなり早々に退散してきたが、モヤモヤとした気分にすぐに寝てしまう気にもなれず、サンジはキッチンへと足を進める。朝食の準備を今のうちにしておくのも、気が紛れていいだろうと、明かりを付けた。

 何に。
 ゾロは一体サンジの話の何に興味を持ったのか。
 普段なら聞き流して、相槌を打つこともしないゾロが、反応したのは薔薇の事だったのだろうか。
 ブルー・ローズ。青い薔薇。咲くことの無い青い色。
 それを見てみたいと、サンジは思った。それも一種の奇跡に違いない。
 ロビンにその話を聞いた時、あの奇跡の海に近づくのだろうかと、そんな都合の良い事を思ったのは確かだ。

−−そんな簡単に見つかるような場所なら、とっくに誰かが見つけてるぜ…

 馬鹿げた夢だ。自嘲すると煙草を揉み消した。
 生地に水を振りかけ、サラサラとした小麦粉が粘りを帯びてくる。考え事をしたくない時には、サンジは決まってパン生地を練っていた。何も考えたくない時は肉体労働に限る。何でもいい、身体を動かしていれば、深みに嵌る事もない。そんな風に生きてきた。

−−オレの槍はまだ錆びちゃいねぇ…

 強くありたい。
 いつも、いつもそれだけを願う。
 居もしない神に。
 否、それは自分に祈るのだ。言い聞かせるように、自己暗示をかける。
 海賊王になるという男が認めてくれたのだ。
 自分に負ける訳にはいかない。夢を追う仲間と一緒に居るのだから。

 ルフィのように前を向いて進む道は無く、ゾロのように鍛えて再び世界一の剣豪と相まみえる道もなく。
 それでも自分の道はこの船が進む先にあると、信じる事だけだ。
 サンジに出来る事は、ただそれだけだ。


 そうして、ただひたすらに生地を捏ねる。

−−まだ出来る事あんじゃねぇか

 腹を満たしてやる事。
 それが何よりも重要で、何よりも嬉しい。


 捏ねた生地をボウルに入れ、冷蔵庫に寝かせる。これで明日の朝は美味しいパンの匂いで、彼らが起き出してくるだろう。
 笑顔でサンジが出した料理を残さず食べてくれるだろう。

 ズクリと傷む腹の奥。



−−痛ぇって事は、生きてるって事だ





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2003/4/26UP

続きます。
何が言いたいのか分かりませんね、まだ…
ええ…まだ始まってもいません、この話。

*Kei*