<<<back

Blue Rose




What I can do

Will I make it through

I must be true to myself



− Zoro −




「知ってるか?」




 互いの欲望だけを吐き出した後、サンジは煙草を燻らしながらそんな事を言い出した。こちらを見るでもなく、横顔は髪に隠れて表情は伺えない。
「知らねぇよ」
 ボトルに直接口を付け喉の奥に流し込んでいた液体を飲み干し、そう答えた。サンジの質問は唐突でその真意を掴むのがとても難しい。そもそも何を知っているのか、主語が無いのだ。分かろう筈もない。
「青い、薔薇があるんだ」
 こちらの答えなど最初から求めていなかったかのように、サンジは話を続ける。
「そもそも薔薇の色素に青はねぇんだ。でも、グランドラインに青い薔薇が咲く島があるってロビンちゃんが言ってたんだ」
 それがどうした、と再びボトルを口に運んだ。
 どうせ会話にはならないので、心地よい低く掠れたサンジの声に耳を傾ける。
「ロビンちゃんは博識だよなぁ。ナミさんも色々知ってるけど、グランドラインを長い間航海してきたロビンちゃんの言葉は、真実が込められてる。青い薔薇なんて、この世に存在するのかって聞いた時も、見たことあるって答えたんだ。見たことあるんだなぁって思ったら、オレも見たくなっちまった。きっと綺麗なんだろうなって。ナミさんにあげたら、喜んでくれるだろうなって」

 −−いや、ナミは金の方が喜ぶだろう。そんな薔薇贈ろうもんなら、即座に換金しに行くだろうよ

 そんな言葉は胸の中だけに仕舞って、まだ終わりそうにないサンジの話を子守唄に、ゾロの目蓋は閉じかけていた。
「色んな事見たり聞いたりしてるロビンちゃんでも、オールブルーについては、オレと同じくらいの知識しか無かったんだよな…。話は聞いたことあるって言ったけどよ、実際に見た事はないんだと。そりゃ一見して分かるようなモンじゃねぇしな、グランドラインは広いんだ。ロビンちゃんが行ってない場所もあるだろうし」
 サンジが饒舌な時は、何かしらの不安を抱えている時だと、眠りの淵を漂っていたゾロはふと思い出した。
 抱き合っている時は、いやそれ以外の時も必要以上の会話を仕掛けてくる事がないサンジが、時折こうして行為の後ゾロの存在を無視するかのように、一人で話し続ける事がある。最初の頃はそれなりに反応していた気がする。いつからから、それがサンジからのシグナルだと気付いた。
 好いた惚れたの仲では無いが、ゾロはそれなりにサンジを気に入っている。
 仲間としても、ただの男としても。
「青い薔薇…どんなんだろうな。花びらが青いんだろ?神秘的だよな…」
「何があった?」
 サンジの話の腰を折り、短くゾロが問いかけると、驚いたように顔を向けてきた。
 大きく見開かれた瞳こそが、青い薔薇の色だと、そう思った。
「何って?何もねぇよ?」
 そんな子供のような表情は一瞬で、すぐにいつものシニカルな笑みを浮かべる。口の端を少しだけ上げた、繕ったような顔は酷く頼りなく見えた。
「…お前の目の色だ」
「…は?何が?」
 きょとんとした顔は再び幼子のようで、くるくる変わるようになった表情にゾロは笑う。
 すかした顔しか見せなかったサンジが、ゆっくりとではあるがゾロに色んな表情を見せるようになったのは、ごく最近の事。
 笑うのはゾロ以外の人間に対してだけで、何に拘っているのか分からないが、いつも虚勢を張っていた。

−−いつもそんな顔してりゃいいのによ…

「その青い薔薇ってのは、お前の目の色だろう」
「…っ!」
「何だよ?」
 虚を突かれたように、サンジの頬は一気に朱色に染まる。
「…オ…マエが、ちゃんと話聞いてるとは思わなかったぜ」
「隣で延々と話してりゃ、聞きたくなくても聞こえてくる」
「…黙ってろってか?」
「そんな事ァ言ってねぇ。何かあったのかと聞いてるだけだ」
 銜えていた煙草をアッシュトレイで揉み消し、苛立たしげに新しく取り出した。





「…青い」
「ん?」
 煙草を一本吸い終わるくらいの間、ゾロはサンジの答えを待っていた。
「青い薔薇を…」
「ああ」
「見ることが出来たら」
「…あぁ」
 ぽつりぽつりと話し出すサンジの言葉に小さく相槌を打つ。
 段々小さくなってくるサンジの声に、人一人分の間隔がもどかしい。
「見ることが出来たら?」
 黙り込んでしまったサンジに、先を促すようにゾロは言葉を反復する。
 言いたいことは言わない。言わなくてもいいような事はポンポン飛び出すのが、サンジだ。これは言いたくない事なのかもしれない、とゾロは思った。思ったが、何かを抱え込んでいるサンジの不安が少しでも軽減すればいいと、そんな風にも考えた。
 何度も槍を見失いかけているサンジの心を弱いとは思わない。
 ゾロのように目標が其処に有る訳ではない。
 不確定要素が多い野望に、サンジは時折どうしていいのか分からず叫びだしてしまいそうになると、いつかそんな事を言っていた。だから、今回も恐らくそれが原因だろうとゾロは踏んでいた。
「いや…いい。何でもねぇよ。ただナミさんにもそんな綺麗な花があるんだったら、見せてやりてぇなって思っただけだ。あるはずのない青い薔薇なんて、ロマンチックじゃねぇ?」
 サンジの答えはゾロの予想を大きく外れていた。
 軽く流された事に不快感を露わにすると、サンジはニヤリと笑い、放ってあったジャケットを手に取り、薄明かりの射すドアへと歩き出す。
「おい、くだらねぇこと考えてねぇで、早く寝ろよ」
 その背に声をかけると、サンジはヒラヒラと手を振った。




↑top Next→

2003/4/8UP

多分続く…。
だって何が言いたいのかこれだけではさっぱりですよね…
そして裏に置く意味は…
スミマセン。また続き物を書いてしまいました。
気長に首長竜のようにお待ちください。
*Kei*