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酒と煙草と
<2>
そう、問題は、髭を剃ろうと鏡を覗き込んだ時に見つけてしまった首筋に残る薄紅い痕。
過去の経験上、これがキスマークだと言うことは分かる。分かるのだが、これがいつ付いたのかということになると、さっぱり分からない。
昨日までは無かったのだから、当然昨夜ということになる。
昨夜はガンガン鳴り続ける頭痛が証明するように、ゾロと飲み明かした、というのは間違いないだろう。となると、これを付けたのは、考えたくないがゾロということになるのだろうか。
シャワーを浴びても特にあらぬ場所が痛いという事が無かったということは、もしかしてよりによってあの筋肉マリモを襲ったのか?!と怖い考えに辿り着き、サンジは頭を振った。
「あてて…」
未だ頭痛は治まらず、ついでに吐き気までしてきたので、頭を抱えて風呂の淵に座り込む。
−−こんなに酷い宿酔いは初めてだぜ…
それだけ飲んだということだろう。
ということは…
−−勃たねぇよな…
どんなに頑張った所で、役には立たなかっただろう。
ちょっと安心したところで、今度は何故こんな痕が付いてしまったのか思い出そうとするが、さっぱり記憶が無い。
酷く酔う事はあまり無かった。コックという職業柄、最後まで給仕や片づけの仕事が残っていると心の何処かでストップをかけているのだろう。
ほろ酔いで気分がいい時は、エロい気分になって絡んで誘ったり誘われたりした事もある。
−−やっぱ…なんか絡んだりしたんだろうか…
「…オイ。大丈夫か?」
「…?!」
急に声を掛けられ驚いて顔を上げると、いつの間に入って来たのか、ゾロが目の前に立っていた。
昨夜コイツに付き合って飲んだのがそもそもの間違いだったと、ムッとした。そして自分が今全裸だという事に気が付く。まぁ、男同士なのでさほど気にする事でもないのだが、如何せん首筋のキスマークの件がある。
再び頭を抱えて俯いた。
「…勝手に入ってくんなよ…。使用中だ、便所もシャワーも後にしろ」
「別に用はねぇよ」
「あぁ?用がねぇなら尚のこと出てけ。メシならこれから用意してやるから、少し待ってろ」
犬でも追い払うかのように手を振る。
「…お前が…」
「は?オレが?何だよ?」
口籠もるゾロに、イライラが募る。
「オレァ今、猛烈に機嫌が悪ぃんだよ。ついでに言やぁ、気分も最悪だ。イライラすっから言いたいことあんなら後にしてくれ」
立ち上がりタオルを腰に巻き、ゾロを追い出そうと伸ばした手を掴まれた。見張り台に居て冷たくなった手が手首にがっちり絡みつく。
「お前が、風呂に入ったっきり出てこねぇから、どうかしたのかと思ったんだ」
「…へ?」
「昨日最後の方、ベロベロんなってたから、ぶっ倒れてんじゃねぇかって」
−−ええと…
「それってもしかして、心配…とかしてたワケ?風呂で倒れてんじゃねぇかって?」
「…そうだ」
−−コイツ、やっぱり結構イイヤツ?
サンジはちょっとだけ気恥ずかしくなり、掴まれていない方の手で濡れた髪を掻き上げた。冷えた雫が足にポトリと落ちて、少しだけビックリする。
「そりゃ悪かったな。とりあえず大丈夫だから、手放せ」
しかしゾロは掴んだ手を離す気は無いらしく、更に力を入れてきた。
−−ちょっと待て…なんか、妙な雰囲気ってヤツか、コレ?!
首筋のキスマークがゾロの仕業だと仮定して、腰にタオルを巻いただけのこの状況は、微妙に貞操の危機という事だろうかと、ソロソロとゾロを窺うとその視線は自分の胸元に落ちているようで。
視線の先を追うと、首筋だけでなく胸の際どい場所にも点々とキスマークが散っているのが見えた。
「…っ!!」
−−オイオイオイオイオイオイッオレっっ!!何なんだよ、コレはっ?!
瞬間、手を強く引かれ、気が付いた時にはゾロに口を塞がれていた。
「んっ…んんんんっ?!」
腰を掴んだゾロの手が冷たくて、背筋が妙に伸びる。慌てて首を振り口づけから逃れた。
「なっ…何しやがるっっ!!」
「…イイな、煙草の味がしねぇ」
そういうゾロは酒臭い。
−−じゃなくてっ!!
「何しやがる、このエロ魔獣!!」
「昨日はよ、酒と煙草の味が凄くてよ、今の方が良いな。お前煙草止めろよ」
「アホかーっっ!!何でテメェに指図受けなきゃなんねぇんだよっ!!オレがヤニ臭かろうが、酒臭かろうがテメェに関係ねぇだろ!つか、そういう問題じゃねぇっ!何だ?何か?昨日…?昨日って…何だ…?」
ジタバタと暴れてゾロの腕から逃れると、言葉の端々が気になってきた。
やはり昨夜エロい気分とかになって、誘いでもしたのか、とか。
「何だ。憶えてねぇのか?」
「うっ…」
覗き込まれて、言葉に詰まる。
「ま、いいや。服着ろ。んで、メシ」
その言い方にムカムカと腹は立ったものの、取りあえず服を着てから、事の顛末を聞き出す事にした。
いや、本当はあまり聞きたく無い気もしていたのだが。
2004/2/1UP
ぎゃーっ;;
うう…やっぱり続いてしまいました(T_T)
今度は半年も間を空けないよう、気を付けます(滝汗)
*kei*