「ぴーちゃんとたっくん」とは・・・
1997年度、学校の卒業研究で、同じクラスの友達と2人で制作した点字絵本です。
目の見えないお母さんと、目の見えるお子さんが、一緒にたのしめる、ということを主な目的として制作しました。
カラー印刷を行った上から、透明インキで、点字や盛り絵を立体的に印刷します。
絵と話は、私、紗英のオリジナルです。
点字の調査から、原稿・版などの作成、印刷(透明インキは、スクリーン印刷で、1枚1枚手刷りによる重ね刷り)、製本まで、視覚障害者の方、先生方、卒業生のいらっしゃる会社の方々、私たちのもとになる絵本を制作した方々など、色々な方の温かいご協力のもと、2人で1年がかりで必死につくり上げた、手づくりの絵本です。
点字絵本だけでも大きなテーマなのだから、1年間、しかも週1回しかない卒業研究の中では時間が足りないので、市販されている絵本を使ってやった方がいいと、親身になって心配してくださった先生もいました(最後まで、本当に温かく見守ってくださいましたね)が、私にとってはそれではつくりたい意欲がなくなってしまうので、とにかく使える時間の全てをつぎ込み、卒研に打ち込んだ1年でした。
そのがんばりが実って、大好評の点字絵本ができました。卒業研究優秀賞受賞・科の代表として、関東高専卒業研究発表交流会で、発表させていただいたりしました。
詳しくは、以下(当時の概要)をどうぞ。
はじめに
20年ほど前、大阪の岩田美津子さんという視覚障害者の方が、目の見える自分の子供に普通の絵本を読んであげるために、工夫をした絵本をつくっていた。それは、ボランティアの方にお願いをして、市販の絵本の文字の部分には透明の点字シール・絵の上には透明の塩化ビニールを貼り付けたものである。そのうち絵本の冊数も増え、「てんやく絵本 ふれあい文庫」として視覚障害者に対して貸出活動を行うようになった。
そして1996年に、透明インキによる点字と盛り絵印刷を行った絵本「チョキチョキ チョッキン」が発行された。この絵本をもとに、私たちは卒業研究を行うことになった。
目的
絵本は親子の絆を深める大切なものであるが、視覚障害をもつ母親にとって、子供に絵本を読んであげるということは安易なことではない。このようなケースの親子にも、当然一緒に絵本をたのしむ権利がある。しかしながら今日では、そのための絵本の存在が少ないことは紛れもない事実である。
この度、点字絵本を制作することによって、このような親子に新しい幸せや感動を届けたり、よい思い出となってもらえるような絵本を、また、その他の視覚障害者の方にも、さわることによって絵をたのしんでもらえるような絵本を、物語をつくるところから制作する。
私たちが点字絵本を制作することによって、目が見えることがあたりまえだという私たち健常者が日常の中であまり気にとめることのない点字や、このような絵本の存在を、少しでも多くの人に知ってもらいたい。それに、このような絵本を必要としている人たちがいることを、また、そういう人たちがいかにこのような絵本を必要としているかを、この卒業研究を通してより多くの人に伝えたい。
![]() オリジナルの物語(絵と文章)をつくる。 点字について、勉強をする。 視覚障害者に対して調査を行い、透明インキを重ねる回数、盛り絵の形などを決める。 絵と文を、合成・レイアウトして、カラー原稿を作成する。フィルム(カラーなので1つの原稿に対して4枚)、版を作成し、厚紙に両面印刷をし、断裁・穴あけを行う。 |
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カラー原稿に合わせて、文字の下に点訳した点字・絵の上に重ねて盛り絵がのるように、透明インキ用の原稿を作成する。フィルム(単色扱いなので1つの原稿につき1枚)、圧膜の版を作成し、A4サイズに出来上がっている、カラー印刷済みの厚紙の上に、位置を合わせて、透明インキで印刷をする(1枚1枚手刷りによるスクリーン印刷で重ね刷り)。 リングで綴じて、完成とする。 このことにより、健常者にとって見やすく、また、視覚障害者にも絵と字を示すことのできる絵本を制作する。 |
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カラー原稿のフィルム | 透明インキ用の原稿のフィルム |
結果
最終的に、オリジナルの物語を点字絵本として、きちんとした36冊の本の形へとつくり上げた。
そして「ふれあい文庫」の岩田さん、読みやすさなどの調査のときにご協力いただいた日本盲人会連合の方々、また、毎日新聞の点字新聞「点字毎日」や日本福祉放送の「JBSラジオ」、視覚障害をもつお母さんのサークル「かるがもの会」などのご協力を得て、視覚障害をもつ方々に、実際にこの絵本を読んでいただき、感想や意見などを述べていただいた。
主に次のような感想が得られた。
・表紙の裏に形や説明が提示してあるので、読む手掛かりになる。
・絵がシンプルでわかりやすく、目などの細かいところまでよくわかる。
・ひとつひとつの絵に説明があり、点字の位置も決まっていて読みやすい。
・さわって読んでいるときに、子供が同時に絵や文字を見ることができるのがよい。
・インキなので、つぶれないし、さわり心地もよい。
・点字はもう少し高さがあるとよい。
・ほのぼのとしたいいお話で、後に残るものがある。
・子供が気に入っている。
・せっかくいいものをつくったのだから、販売されたらいいのに。
・このような絵本が本屋に並んで、普通に買えるようになってほしい。
ちなみに、出来上がった絵本は、感想や意見などを述べてくださった視覚障害者の方々、この絵本を制作する過程においてお世話になった方々(「チョキチョキ チョッキン」を制作された方々や、各過程において協力をしてくださった、それぞれの卒業生・会社の方々)に、お礼として、感謝の意を込めてお渡しした。
結論
改善すべき点もあるが、視覚障害者と健常者とが、一緒にたのしむことのできる絵本を、制作することができたと思う。
そして、制作を行ってきて、視覚障害をもつ母親とその子供にとって実際に、いかにこのような絵本がよろこばれるのか、つまり、どれだけこのような絵本を必要としていたのか・・・、絵本が求められていたのか、ということを痛感した。それに、やはり多くの人たちが、ボランティアなどで特別に手を加えられたりして、余計に時間がかかったり、場合によっては特別なお金をかけたりしてやっと手に届くのではなく、本屋へ行けば並んでいるような、普通の製品としての普及を望んでいた。
しかしこのような絵本は、普通の絵本よりもニーズが少なく、それにコストもかかるので、普及させるということは、やはりなかなか難しい問題である。
また、この絵本の内容や透明インキの盛り方については、予想をはるかに上回るほど、たのしんでいただけた、よろこばれるものだったと、自信をもっていうことができる。親が子供に読んであげられるためのものとしてだけではなく、母親であったり、個人であったり、視覚障害者自身にとっても、充分に絵をたのしんでいただくことができ、印刷という技法のみでも、目の見えない人に絵をたのしんでもらうことはできるのだと確信した。
絵に関しては、改善の余地はもちろんあるが、人によって意見が違うので、なかなかどの人にもよろこばれる形を、ということを追求していくのは難しいといえる。
点字に関しては、読んでもらった人の中には読めない人はいなかったが、少し薄いという意見も多かった。重ね刷りの回数を調節し、もう少し高さを出すことは可能である。
また、身近な人やお世話になった方々に、この卒業研究を通して、点字絵本の存在を知らせたり、このような絵本の必要性を訴えたりすることができた。
私たち自身、このような絵本の必要性を、この研究を通して本当に強く感じたので、これからもいろいろなところで、少しでも多くの方に伝えることができたらと思っている。
感想
今まで読む側としては気にもとめていなかったことを、つくる側がいかに気にしているのか、また、たとえ単純な作業であっても、絵本であるがために約20枚分その作業を繰り返すということの大変さを、制作してみてはじめて知った。
読んでいただいた視覚障害者の方々には、新たな世界を提供できてうれしかった。よろこぶ顔が見れたとき、よろこびの声が聞けたときのうれしさといったら格別なものであった。苦しかったけれども、大変だったけれども、がんばってきてよかったと思う。いろいろな人とのふれあいがあり、世界が広がったりで、とても良いことがいっぱいだった。
自分のつくったお話なので、不安になることもあった。けれども、皆さんの「いいお話ですね」「子供が気に入って・・・」というような言葉を聞く度に、本当にありがたい気持ちになった。
絵本でなければ制作しようとは思わなかったので、そういう意味では、苦しんだこと、いろいろな人に出会えたこと、幸せな気分、うれしい気分になれたこと、よろこんでもらえたこと・・・、全部絵本が引き合わせてくれたのだと思う。
色々な会社の皆さんが、本当に温かく、機材や材料を提供してくれたり、丁寧に指導してくれたりしたおかげでつくり上げることができた。本来なら、技術的にも、コスト的にも、私たちには手におえないようなことばかりだった。視覚障害者の方々も、突然会った私たちを、とても温かく、そして、とても明るく迎えてくれて、真剣に絵本を読んで、感想を言ってくれた。そのおかげで、この研究は成功できた。何と言っていいかわからないほどの、感謝の気持ちでいっぱいです。ありがとうございました。
現実問題として難しいのは事実だが、このような絵本が広く普及する日が来ればよいと思う。これらは決して、視覚障害者のためだけの絵本ではなく、私たち健常者のための絵本としても、きっと成り立つことと思う。
そしてもし、いつか本屋で、町で、図書館で、このような絵本に出会うことがあったなら、ふと足を止めて、ぜひめくってみてほしい。さわってみてほしい。そして何かを感じていただけたら・・・。
参考絵本 「チョキチョキ チョッキン」 著 者 樋口 通子 ・ 岩田 美津子 発行所 てんやく絵本 ふれあい文庫 発売元 株式会社 こぐま社 印 刷 シーレックス株式会社 製 本 株式会社 技秀堂 |
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この本に関わった、ここにあげた皆様にも、本当に温かくしていただきました。 改めて、お礼申し上げます。 |
なお、私自身は、この卒研以降、点字絵本の制作や、それに関わるような活動は行っていません。
興味のある方は、ぜひ、ふれあい文庫の方へ行ってみてください。
点字絵本の貸出や制作(図書の販売コーナーに、参考になりそうな本もありました)などを行っています。
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