荷  葉



夏の初めに焚く香は
ほんの少し
青く香って


さわさわと
風吹く水辺を思わせる


蓮の葉の
名を持つ薫物(たきもの)


水面を覆う
緑に光る白珠は


浄土の空から
こぼれ落ちたる
清らな水滴(しずく)か


つつましく
細い煙が
立ち上れば


いにしえも
今も


すべては
やはらかき
帳(とばり)の中


これはきっと
名残りの雨の香り


ひそかに流れた
涙の香り


捨てきれず
胸の中たまった想いは


こうして
ひとりの夜に
火を灯してしまえばいい


ゆらゆらと


眠ってしまえばいい
こころを閉じて


夏の初め


荷葉の薫りに
くるまれて






※ 荷葉(かよう)・・・平安時代から伝わる伝統的な薫り「六種の薫物」の中のひとつ。
「六種の薫物(むくさのたきもの)」については こちら