メトロポリス

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監督りんたろう
脚本大伴克洋
総作画監督名倉靖博
声の出演
井元由香(ティマ)
小林桂(ケンイチ)
岡田浩暉(ロック)

 臓器売買と生体実験の容疑がかけられたマッド・サイエンティスト、ロートン博士の手がかりを求めて巨大都市国家、メトロポリスを訪れたヒゲオヤジとケンイチ。折しもメトロポリスでは、街の実力者、レッド公の手になる巨大建造物、ジグラットの完成記念式典が華やかに行われていた。メトロポリス中でも最大の威容を誇る超高層ビル、ジグラット。だがそこには、最上部に儲けられたオモテニウム発射装置により、太陽の黒点を異常増殖させて発生する電磁フレアによって、全世界のロボットたちを動作不良に陥らせる装置が隠されていた。さらにジグラットには、"超人の間"と名付けられた不可解な部屋もしつらえられていた。ジグラットは、レッド公によるメトロポリス、ひいては世界征服の野望実現のためにつくりあげられた構造物だったのだ。そして今まさに、"超人の間"の鍵となるべく、ロートン博士によって極秘裏に作りあげられた一体のアンドロイドが目覚めようとしていた。だが、公の今は亡き娘の名を取ってティマと名付けられたそのアンドロイドが、予想だにしないアクシデントの末、ケンイチと出逢ったことから、ジグラットを巡る巨大な事件が幕を開けようとしていた………

 日本マンガの神様、手塚治虫氏の初期の傑作を、かつて"鉄腕アトム"を見て育った大友克洋氏が脚本を書き、その"アトム"の制作にあたっていた、りんたろう氏が監督として作り上げた、驚天動地のSF大スペクタクル・アニメーション………になる予定だったんだろうなあ(^^;)。

 いや実際スゴいんだ。とにかくもうものスゴいとしか言いようのない作画のレベル、手塚マンガのお約束とも言うべき大モブシーン、超ロングに引いた、やたら凝り倒した構図取り、CGIのクオリティの高さ、手塚作品の一種の"古さ"を演出するディキシーランド・ジャズの多用もうまいし、無声映画時代の大作、"メトロポリス"(フリッツ・ラング)や、グリフィスの"イントレランス"のイメージをさりげなくメトロポリスの風景にとけ込ませてみせるあたりもうまいし、楽しい趣向だと思う。どれをとっても金払ってみるだけの値打ちは充分にあると思うのだ。それでも、というかそれだけに、だな。

 何のためにこの映画を作ったのかが、イマイチはっきりしないのが何とも惜しい。手塚さんに捧げたものなのか、手塚作品をいったん解体して、大友氏なり、りんたろう氏なりの解釈を加えて再構成したものなのか、単に"メトロポリス"というテーマなりのスペクタクル作品が作りたかったのか、そのへん、どうもはっきりしてこない。手塚治虫的未来世界のシミュレーションを目指したのか、機械と人間の心の交流がテーマなのか、高度に発達した文明がもたらす危険性への警鐘なのか、どれでもありそうだし、どれでもなさそう、というか。そのものスゴい画像に比べると、お話の内容とその流れがあまりにありきたり、かつ盛り上がりに欠けるような気がするんだった。

 "幻魔大戦"や"カムイの剣"でも感じたことなのだけれども、りんたろう氏の作品というのは常に、圧倒的な画像の緻密さ、美しさとひきかえに、何かこう、お話のクライマックスへ向けてのベクトルが、うまい具合に右肩上がりになってくれないような感じがするのだな。この作品でも、ジグラットを巡るレッド公の陰謀がうち砕かれる(当然、ベースは"正義は勝つ"なのだからね)過程、ロックとレッド公の確執(とはちょっと違うけど)の結末、ケンイチとティマの出会い、ふれあい、そしてその果てに待つもの、メトロポリスの下層で苦しむ人達の革命への動きなど、いくつかの軸が絡み合ってクライマックスになだれ込んでいくはずが、その絡み具合が妙に密にならない感じがあり、結果として、ちょっと盛り上がっては盛り下がり、また盛り上がっては盛り下がり、の繰り返しで、見てるこちらはどうにもこう、一気に盛り上がれない気分をかかえたまま、大団円になだれ込んでいってしまうのだった。大変惜しい。

 それでもなお、レイ・チャールズの"I Can't Stop Loving You"を心憎いまでにフィーチャーしたヤマの一つとか、見所はたっぷりあるんだよなぁ。すごく引っかかるものがあるんだけど、でも見ないよりは見た方が絶対いい。現在のところジャパニメーションの技術的な北限にあるのは間違いなくこの作品だとは思うのだ。それだけにお話の持って行き方がなあ。もっとこう、ストレートに感動したかったのだ。手塚マンガ(とりわけ少年マンガ)の魅力とは、つまるところ、いかなる未来であれ、人は信じるに足るものなのだ、という明るいメッセージであると思うのだが。んでこの作品にもそのメッセージは辛うじて込められているとは思うのだが、んでもそれが素直に、すとんとこちらの胸に落ち着いてくれないのがとても残念なのであります。

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