ロード・オブ・ザ・リング

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監督ピーター・ジャクソン
原作J・R・R・トールキン
脚本フラン・ウォルシュ/フィリパ・ボウエン/ピーター・ジャクソン
音楽ハワード・ショア
製作ビリー・M.オズボーン/ピーター・ジャクソン
フラン・ウォルシュ/ティム・サンダース
出演
イライジャ・ウッド
イアン・マッケラン
リヴ・タイラー/ヴィゴ・モーデンセン/ショーン・アスティン
ケイト・ブランシェット
ジョン=リス・デイヴィス/ビリー・ボイド/ドミニク・モナハン
オーランド・ブルーム/ヒューゴー・ウィービング/ショーン・ビーン
クリストファー・リー
イアン・ホルム
公式サイト
http://www.lordoftherings.net/

 「指輪物語」と言うと、オレと同年配の方であればアニメーション界の奇才、ラルフ・バクシによる残念ながら失敗に終わった中途半端なアニメーション映画を思い起こされる方も多いのではないかな。STNWから始まった大作SFX映画花盛りの'80年代初頭、封切られるまでは大騒ぎの大注目、封切られた瞬間にみんなが忘れようとした、ちょいと不幸な映画であった。

 一度生身の人間に芝居をさせたものをフィルムに落とし、それを元にセル画を起こしていく、という、言ってみればモーションキャプチャーのものすごく原始的なものとも言える"ロト・スコープ"なる技術によって、これまでにない、リアルなモーションのアニメーション映画が出来てくると言う期待は残念ながら裏切られ(というか、確か時間かお金が途中で足りなくなってしまい、映画はセルアニメと実写映像を直接アニメ風に処理したものが混じった、でたらめなものになってしまってたんじゃなかったかな)、やはり「指輪物語」を映像にすることは無理なのだ、と感じた人も多かっただろうと思う。オレもそう思った。さてそれから20余年、果たして飛躍的に進歩した映像表現の能力は、この、あらゆるファンタジーの源流中の源流とも言うべき大作を見事映像として表現できたのか否か。監督は「バッド・テイスト」、「ブレインデッド」などの新鋭、ピーター・ジャクソン。SFXを担当したのはニュージーランドのWETA社(ここは監督であるピーター・ジャクソンが設立した総合的なイメージ工房らしい)。

 とりあえず徹頭徹尾、正々堂々と巨大なネームバリューの原作に立ち向かった映画で、そこがとてもいいし、またちょいと不満でもある、と感じた。映像の美しさ、豪華さ、スペクタキュラな見せ場のド迫力は圧倒的で、デジタル技術の進化のありがたみを存分に堪能できるし、同時に「人の手になる」セットのすばらしさも特筆もの。スタッフロールで延々と大工さんたちの名前が出てくるのも伊達じゃない。冒頭のホビットの村の造型(造園か?)はものすごいっす。三時間という長尺の映画なんだけど、全く退屈することなく最後まで映画を楽しめる。その意味では本当に楽しめる、いい映画だと思う。

 ただ逆に、そのきまじめさ故に何となくこの映画、深みみたいなものが感じられないように思える。三部に分かれた長大な物語の第一部という事で、いろいろ紹介しなくちゃいけないこともあるし、なおかつ見せ場も用意しなくちゃいけないって言う台所事情もあるのだろうけどお話の説明の過不足のバランスが少しばかりくずれている、って感じかな。

 「指輪物語」ってのは、素朴な農民がひょんな事から世界を破滅に導きかねない力を手にしたときに、持ち前の善良さと誠実さで世界が破局に進むのを阻止するまでの冒険の旅、という表だったストーリーの陰に、世の中の表だったところにはなかなか現れてこない光と闇の勢力どうしの永きにわたる抗争という背景があり、読む側は表層的な主人公たちの冒険に手に汗握りつつ、さらにその奥の二つの巨大な勢力という存在を自分なりに読み解いていく話で、だからこそさまざまな価値観がいったん崩壊した'70年代に熱狂的な読者がついた物語なんだと自分なりに理解しているのだけど、少なくともこの映画は、その表層の部分をかなり忠実に映像にしてくれているのだけれども、さらにそのまた一歩奥に踏み込んだものについて、あまり突っ込んだ考察がなされていないように見えるのだな。

 見てる分には凄い、てのはつまり「見るだけ」の映画になってるとも言えるわけで、そっち方面ではこの監督さん、なかなか凝った事をいろいろやってくれてて、凝ったカメラワーク(年寄りの目には何が起きてるのか認識できない瞬間も多かったけど)やちょっとしたキャラクタライジングのくすぐりなんか、かなり冴えていると思うのだけど、そのことが逆に「ああ、若いな」と、歳とって意地の悪くなった観客に思わせてしまう結果を招いてしまったような気がしないでもない。凄い絵なんだけど、軽いのだこの映画。

 なんていうかな、オレは「指輪物語」が見たかったの。でも見た映画は「ロード・オブ・ザ・リング」とかいうカタカナタイトルの映画だった、と。まあそういう感じ。見て損のない映画だとは思うけど、「おお、オレは今『指輪物語』を見てるぜ」って気にはちょっと、なれなかったなあ。

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