ジュブナイル

劇場版パンフ表紙 スタッフ
監督・脚本・VFX・コンセプチュアルデザイン山崎貴
エグゼクティブプロデューサー阿部秀司/島村達雄
出演者
香取慎吾 酒井美紀
鈴木杏
遠藤雄弥/清水京太郎/YUKI

 その年の夏、ユースケ、トシヤ、ヒデタカ、それにミサキの4人は、林間学校に出かけた先でふしぎな物体と出くわした。夜の闇を一瞬切り裂いて森の中に消えた光。光の消えた場所に穿たれた穴の底には金属のボールのようなメカ。彼らがその玉に手を触れた瞬間、"それ"は動き出し、そしてしゃべったのだ。「てとら、ゆーすけニ、アッタ。」

 そして夏休み、ユースケたちにはテトラという新しい仲間ができた。さまざまなジャンク品を自ら加工しては自分のパーツとして組み込んでいくテトラのために、あちこちからジャンク品を調達するユースケたち、毎日がわくわくするようなそんな日々が続く中、地球には謎の巨大な宇宙船が刻々と接近していた。自由に自らの姿を変え、貪欲に地球の情報を吸収していく彼ら、ボイド人の目的とは、そしてボイド人とテトラの関係は?そして何より、なぜ、どこからテトラはユースケたちのもとにやってきたのか?忘れられない夏の冒険が始まった………。

 弱ったなあ。今思い出しても、なんか涙腺がゆるゆるになってきちゃうぞ(^^;)。

 CF出身の山崎貴さんの演出はスピーディーで無駄がなく、しかも必要なことはしっかりとスクリーンに映し出されていて好印象。絵づくりのうまさ、色彩感覚の素晴らしさもさすがにCFで揉まれた人だけのことはある。宣伝などではSF的なCGIパートなどがプッシュされておりますが、んでそれらの完成度も大変高いのですが、それ以上になにげない子供たちの日常を描写するシーンが圧倒的にうまい。子供たちが走る、ってだけのシーンが楽しく、懐かしい気分を盛り上げてくれてます。

 脚本もとてもいいです。ここのところの日本映画の多くが、見せ場ばかりを重視してお話をないがしろにしたつくりになってるものばかりで常々苦々しく思っていたんですが、この作品はちゃんとお話ができています。筋としてはごくありふれたものといってもいいものですが、細部までていねいに考えられたお話の展開、伏線の張り方、登場人物の動機づけなどなど、手を抜かない、スキのないストーリー展開は、物語を表現する映画にはやっぱ必要不可欠ですよね。「ガメラ」でもどうかするとお話をはしょってワケわからん事が起きてたことを考えても、ここをおろそかにしなかったスタッフの皆さんには心から拍手を送りたいですね。配給元の大手映画会社のスタッフの皆さんにも、是非見習っていただきたい(^^;)。

 などといいつつ実はこの作品の本当の魅力は別のところにあるような気がしてまして、それはとりもなおさず"ジュブナイル"、というタイトルにそのすべてが集約されておるんだと思います。背伸びしたい盛りの年ごろの子供たちがやりそうな、自分たちだけの秘密とか、冒険への憧れとか、女の子へのもやもやした気持ちとかが、とてもていねいに、同じ目線の高さで描かれている。これがもう素晴らしい(し、オレ的には切ない)。

 監督・脚本を兼ねる山崎貴さんは、通り一遍の、大人が勝手に型にはめてしまった結果出来上がる"現代っ子"像をなぞることはせず、それとは明らかに一線を画した、個性的だけど充分に納得できるリアルさをもった子供たちをつくりあげています。ハイテクばやりの現代社会に暮らしているからって、子供がみんなパソコンバリバリ使いこなせたりするわけがない。ゲームがいくら子供たちの一番の遊びだからって、子供はみんなゲームの達人な訳じゃない。お小遣いだって限りがある。何でもかんでも持たせてもらえるはずがない。情報がいくらたっぷりあったって、はじめて女の子を意識したら、その子に面と向かった時、気の利いたセリフなんかとっさにでてくるわけがない。そんなささいな、ごく当たり前なものごとをていねいに積み重ねていくことで、どこにでもいそうな、でもじつは今、とても少なくなってしまったのかもしれない少年少女たちの姿が鮮やかにスクリーンに映し出されているんですね。

 本来ジュブナイル、てえのは、まあ「少年少女向けの」ぐらいの意味なんですけれども、で、本来"ジュブナイル"って言葉がターゲットとしている観客に対しても充分すぎるぐらい楽しめる作品であるのは確かなんですけれども、それ以上にワシらみたいにジュブナイル、って言葉自体にそこはかとないノスタルジーを感じとってしまう世代にとって、かつて自分たちが触れた"ジュブナイル"のエッセンスを追体験させてもらえるって意味で、極めて危険な映画です(^^;)。お父さん方、お子さま連れて鑑賞する際は少し席を離して座ったほうがいいかもしれません(^^;)。

 夏、少年少女、秘密の冒険、初恋と友情と成長、とまあそんなキーワードを抜き出して、何となくこう、胸の奥にきゅんと鳴るモノを感じてしまう諸兄には必見の映画。まだ半年あるけど、今年のナンバーワンにしてもいいと思っちゃうぐらいいい映画です。この映画がぽしゃるのは日本の映画産業にとって不幸以外の何物でもないと思うので、未見の皆様はぜひ!

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