ほしのこえ

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監督・脚本・作画・編集新海誠
音楽天門
声の出演
武藤寿美・鈴木千尋(声優吹き替え版)
篠原美香・新海誠(オリジナル版)
公式サイト
http://www.hoshinokoe.com/

 2039年火星、タルシス台地のクレーターから発見された異星人の遺跡はまだ稼働しており、そこに残された迎撃システムによって人類の調査隊は一瞬にして全滅する。その一部始終を記録した映像は全世界に流れ、人類は一致団結して未知の宇宙種族、タルシアンに対抗するべく国連宇宙軍を創設、全世界から優秀な人材の登用を開始した。そして2047年。タルシアン追撃艦隊は地球を出発、太陽系を越え、タルシアンの本拠を探す旅に出る。ぼく、ノボルの友達、ミカコもその艦隊の一員なのだ………。

 「彼女と彼女の猫」の新海誠氏による、オリジナルCGアニメーション第二弾。完成前からそのクオリティの高さ、作品のほとんど全てを新海氏一人で製作している、ということであちこちで話題になっていた作品が、この作品の誕生には浅からぬ因縁のあるDoGAのCGアニメーションコンテストにおいて特別上映されたもの。「彼女と彼女の猫」でも存分に見せつけてもらった、日常生活のディティルの圧倒的なまでの描き込みが相変わらずすばらしい。お話の方は、SFでは良くあるウラシマ効果をベースにした長距離恋愛の哀しみを扱ったものだけど、その中で重要な役割を果たすのがケータイメールである、というあたりが今風と言えば今風か。ただ、派手なSFロボットアニメ風の戦闘シーンなどが話題になったせいで一見前作とはうって変わった世界のように見えるけど、こいつもやっぱり新海ワールドの中にすんなりと収まる作品であると思う。

 派手な宇宙戦闘シーンとかもすばらしい出来ではあるんだけど、新海氏自身は、実はここにはそれほど入れ込みがある訳じゃなく(それゆえ既存の作品との類似性もあちこちから突っ込まれている、し、まあ実際そうです)、むしろそれはお話の都合上必要なだけで、必要である以上はそれなりにしっかりと作り込んだだけのものであって、この作品で新海氏が込めたかったメッセージていうのは、「彼女と彼女の猫」に通じる、「この世界が好きだよ」って事だったのじゃないのかな、などと思った。これが新海ワールドなんだろうな。日常のつみかさなりをそれとなく愛する世界、というか。

 それを実際に映像にしてしまうこの人の技術と情熱はそれにしても凄いなあと思う。「今度はロボットアニメもやってみたかったので」という理由でLightWave導入して、んであそこまで動かすかー。買ったら自動的に出来るようになるようなもんじゃないんだぜ(自滅したオレ)。ものを動かすことに長けた人、すばらしいオブジェクトをデザインする人、華麗な映像効果を次々と繰り出す人、というのはこれまでのCGアニメコンテストなんかでも何人も拝見してきたけど、それら全部のスキルを高い次元で保持している人というのは新海氏が初めてなんではないだろうか。しかもこの人にはそれプラスすばらしい美術(いわゆる背景としての美術)と、非常に、独特なシナリオのセンス、さらに(ご本人は否定されるだろうが)個性派の声優の素養まで持っている。凄い人が現れたものだ。

 ちなみに販売されているDVDにはオリジナル版と声優さんを使ったものの二種類の音声トラックがあるのだけれど、こと「ほしのこえ」に関する限り、音声に関しては声優版を素人さんのオリジナル版が圧倒している。もちろん正式な発声練習などしていない人たちゆえの滑舌の悪さや声の震えのようなものはあるのだけれど、逆にそれがいいんであります。こう、なんつーかね、少年少女の淡い気持ちの揺らぎがそのまま声に出てるような感じがするのね。こういうのもオリジナルの持つ力、つーんでしょうか。

 コミック・エッセイ風の造りだった「彼女と彼女の猫」ではそこまでは見えなかったけど、ほんとにこの人は凄い、というか今の若い人たちには、こういう人が案外ごろごろしてたりするんだろうか。日本がハリウッド大作映画に対抗するとしたら、案外こういうインディーズな映像作家大国を目指すのが一番いいのかもしれない。「ほしのこえ」自体は(ご本人も認めているとおり)一種のこれはバブルな訳だけど、それによって若い人たちが、「なんだ、作りたかったら自分で作ればいいんじゃん」と思うようになっていく、てのはなかなかこの先、楽しみなことではあると思いますな。

 以下余談。
 特別上映会の後、DoGA代表のかまたゆたか氏と新海氏によるごく短時間の座談会があって、そこで知ったのだけれど、「彼女と彼女の猫」に続く新海氏の新作は、実は「ほしのこえ」ではなかったのだそうだ。どちらかといえば「彼女と彼女の猫」に繋がるような比較的地味なストーリーであったらしい。で、それに対してかまた氏がNGを出した結果生まれたのが、「ほしのこえ」だったのだそうだ。

 CGアニメーションというジャンルをより深く広く根付かせたいがゆえ、新海誠というブランドを確立させたかったというかまた氏の思惑もあってのことではあろうけれども、それがこの結果に繋がったというのは、CGアニメの世界にとっても、新海氏にとっても、大変良いことではありましたな。

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