信じる君へ

 Kへ。

 実は君がとある宗教の熱心な信者になっていて、学生時代のつてなんかを利用してあちこちに声をかけている(君ら的には『折伏』、か)らしいと言う情報は入っていた。次は俺の番って事だったんだな。会わない、って選択肢もあったんだけど、でも会うことにしたのは、今はどうあれ学生時代には寮の同じ部屋で3年間一緒に暮らしてた、それなりにかわいい後輩をあんまり無碍にするのもな、って思い直したからだし、いくら何でもこっちにそういう話をする気がないのがわかってもらえたら、それ以降は普通の世間話で終始して、にこやかに「またな」って事になるだろうと思ってたんだ。甘かったな俺は。君が信じているのは、俺が思ってたのよりもかなりなんというか、危ない感じの宗教のようだな。なんで君がそんなものを疑いなく信じ、他人にもそれを押しつけるようになってしまったのか、俺には全く思い当たる節がないんだが。何があった?

 学生時代の君はアレンジと焼酎が好きで、飲むと涙もろくなるし、ちょっと人の話を聞かないところもあったけど、総じていいヤツだったと記憶してる。胃腸が弱いというのは知らなかったが、のんびりした寮暮らしからいきなり社会人の暮らしに切り替わって、ストレスもたまって病気も重くなってしまったらしいな。そんな、一時的に身も心も弱り切っている時にその宗教と出会ったのか?君はそうじゃないって言っていたけど。

 俺自身は宗教は信じない。人が誰も宗教にすがらなくても生きていける世の中ってのが理想の世界だと思ってる。でも、身体の苦しみや心の苦しみってのは人にはつき物だ。その苦しさ、つらさが神様を信じることで和らぐこともあるだろう。神様とともにある、と信じることで毎日の暮らしを生き甲斐を持って生きていける人がいるであろう事も否定しない。君もその神様を信じることで何かが変わったのだろ?そのことを俺は喜ぶよ。よかったなあと思うよ。でもな、それは君の問題で俺のじゃないんだ。俺は君に助けて欲しいとか言ったか?君は自分の宗派以外の宗教を全て「外道」と拒否してるよな。俺にとってはその「外道」に君の宗教もまた入っているというだけのことなんだが、そこを君は絶対納得しないんだろうな。

 どちらかと言えば口べただった君がすさまじい勢いで、同じ事を何度も何度も、「それは聞いたぞ」とこちらが遮っても止めないのは、つまりは教祖様から戴いたありがたい功徳を説く以外に、君に持っている折伏の手段がないからだよな。こちらが疲れて君の言うことを聞くまで、君は必要ならばどこまでもついていって同じ事を滔々と述べるのだろうな。それはな君、君が「外道」と切り捨てる数多の宗教団体がやっていることと何も変わらないんだ。俺は言ったよな、「君がやってるそれはオウムとなんも変わらんぞ」と。君の答えは「僕らだけは違うんです、僕らだけが正しいんですから」だったよな。あのな、そういう時にはオウムもおんなじ事を言うんだよ。

 いわゆる「カルト」と呼ばれる宗教団体の特徴って知ってるか?

 今日の君の折伏とやらの内容は全て含まれているよな。君からもらった教団の新聞やパンフもちょっと見たけど、君はこの新聞に踊る見出しを見てなんにも感じないのか?あゝ、ついに本日「五千結集」叶う 広布最終段階の戦いこそ○○がだと?俺は戦時中の新聞を読んでいるのかと思ったぞ。君がさんざん説き、パンフにもあった「ここ10年以内に大地震が起こることは確実だ、高名な学者の研究でもそう言う結論が出ている」、うん、そうだね。かなり高い確率で東海地方に地震は起きるのかもしれないね。でもな、プレートが動くのは人の不信心ゆえではないんだよ。保証してもいいが、もし君らの宗教が世界中の人々全部に信仰されたとしても、それでも地震は起こるぞ。その時君はどうする。不信心者がいなくなればこの地球に災厄は起きないのではないのか?中に不信心者がいたのだ、と言い逃れるか?いいか、逆に人がひとりもいない時にだって地震は起きてるんだ。不信心者はおろか人ひとりいない世界でなぜ地震が起きた?

 今の世の中、ひどいニュースが毎日のように流されているのは事実だ。でも冷静に考えてみろ、本当に凶悪事件が増えたと言い切れるか?増えたのは凶悪事件の報道でしかないのかもしれないのだよ。君の大聖人さまは全てを見ているそうだが、それにしてはやけにテレビのニュースソースをそのまま引いてきて「こんなに人心は乱れている」と嘆いてみせるよな?一度でもマスコミが報じない残虐事件というものを君の神様は教えてくれたことがあったか?

 君らの宗教的には、国家が滅亡する時と言うのは自界叛逆(じかいほんぎゃく)他国侵逼(たこくしんぴつ)といい、それぞれ自然災害と他国の進行を指すのだそうだな。君らが描く亡国のシナリオというのは、再びの関東大震災と、それに続く中国の日本侵攻と言うことらしいな。なるほど。で、聞くが、中国が日本に侵攻するメリットというのは奈辺にあるのだ?ソ連亡き後、中国がアメリカに対抗するスーパーパワーとしてのし上がってくる可能性は否定しない。その時、中国の対米戦略において日本が非常にじゃまな要衝になる、というのはまあ正しい。だがな、君の神様は日本製の世界地図しか見ていないのではないか?ど真ん中に太平洋がある地図を見れば、中国は確かに一直線に東を目指したいと思うかもしれないけどな、試しに大西洋が真ん中にある地図を眺めて見ろ、ちょっとは違って見えないか?日本侵攻を行った中国に、周辺からかかる圧力というのを考えたことはあるか?いいか、世の中ってのはこれで結構精妙なバランスの上で成り立っているんだ。大きな勢力ほどそのバランス感覚は鋭敏なものだ。あえてそのバランスを崩すにはよほどの決意が必要なんだよ。地図の東の果ての島国を侵略することで、地図の西半分を敵に回しかけないリスクが発生するわけだがそこまでするメリットを君の神様はどこら辺に見出しているのだ?教えてくれ。

 今の君に何を言っても「でもこれだけが正しいんです、経験してみないでどうして拒否できるんですか」って言うのだろうな。うん、一理ある。俺は君のいう経験を試すことすら拒否してる。でもな、それは君のその折伏とやらのプロセスに恐れを抱いてしまっているのだと言うことを理解してくれないか。俺がついぞ君の中に見たこともない目で、「一度ちょっと経験してみたら」なんて言われて、これまで様々なカルト教団が起こした事件を情報として仕入れている人間が、易々とついていくわけがないだろう。俺だって我が身はかわいいのだ。なあ、少し冷静になって考えて見ろ。君は「webで我々について語っているサイトの99%は、我々に敵対する連中ですから信用しないでください」っていったよな。しかしな、君らの教義が真に多くの人々が信ずるに足るものであるなら、なぜに1対99、などという比率が発生するのだ?悪くてもフィフティフィフティになるべきではないのか?批判サイトが林立する状況を君はどう考えているのだ?。インターネットは便所の落書きかもしれんが、落書きの中にも真実はあるのだぞ。

 もう一度言うぞ、冷静になれ。敵対する者たちの意見を熟読しろ。一度君のその教義を切り離した上でそうしろ。君らの最終的な目標は、君らの教義を日本の国教とし、さらに全世界の人間が君らの信仰に染まった世界を作る事だそうだな。そういう世界をなんて言うか知ってるか?洗脳社会というのだよ。俺はそんな世界で生きることは拒否する。

2002/02/09

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