原告側の証人

 12月14日の日記でちょっと触れた、民事訴訟の証人として神戸地裁に出廷してきた。いやー、緊張しましたわ(^^;)。そうそう経験できることじゃないもんね。

 さてこの訴訟、そもそもどういう物かというと、ウチの会社が、とあるそこそこ大手のメーカーから、プレイステーション用のゲームソフトの開発依頼をもらったことに端を発する。ウチの方からいくつかの企画を提出して、その内の一本(なかなか説明しづらいんだけど、アドベンチャーぽい社会人シミュレーション、て感じかな)が先方でもいい評価をもらって、それを開発するってことで契約がまとまった。ところが、実際に開発を進めてみると、想像以上の作業量が必要になるらしいこと、にもかかわらず先方の制作進行担当者が、企画の骨子をしょっちゅういじくり回したり、その担当の上司がまたそういう状態をほったらかしにしてたもんだから、それなりに膨大なシナリオが必要になるにもかかわらず、シナリオとストーリー分岐を考えては振り出しに戻す、てな二転三転が続いちゃって、こっちのスタッフはほとほと消耗しきってしまったんだった。

 んでこれではだめだってことになって、こちらからいったん「このままでは完成の目処が立たないので、開発中止としたい」旨申し入れたところが、先方やけにこちらが提出した企画がお気に召したのか、「こちらから協力スタッフを出すので完成にむけて作業を続行して欲しい」とのお達し。この時点で先方が紹介してくれたのが今回の被告氏ってわけ。話はこれで一段落するかと思ったんだけど、肝心の被告氏が全く仕事をしてくれない物で、結局仕事は全く先に進まないまま時間だけがだらだら流れ、最終的にこちらとしては開発中止を決定し、クライアントにそれなりの額の返金をし、被告氏に対しても開発費の返還を求めたんだけど、向こうは自己破産を宣言してトンズラこきそうになったもんだから、弁護士さんに相談して正式に裁判で争うことにしたってワケ。

 こういうことって結構あるらしいっすよ。仕事受けるだけ受けて、トンズラかますアニメーターとかソフトハウスって。特に人の多い東京では日常茶飯事らしいっすね。んでも神戸の田舎者のソフトハウスの従業員であるワシらとしては、(とりわけ18禁ゲームの世界では)それなりにネームバリューもある被告氏が、お金をもらっておいて約一年、ゲームじゃ使い物にならないラフスケッチだけをだらだらとFAXで流してくるのみで、本来契約でしっかりと謳われていたデジタルデータをほとんど作ってくれないなんてことがおこるとは思わなかったんで、いったい被告氏が何考えてたのかもちょっと知りたい気持ちもあって、緊張しつつ神戸地裁に出向いてまいりました。

 で、原告側証人がやることはこんな感じ。

 まず法廷に入ると自分の名前、住所を所定の用紙に記入。"交通費を請求"って欄があるのがなんだか面白かった。どうせ定期できてるんだからここは"請求しない"にチェック。それから"宣誓"って書類に捺印。これで準備完了。裁判官が出席して起立、礼で裁判がはじまりはじまり。まず証人と被告が並んで立って、さっきハンコをおした"宣誓"を音読。人前で立ってなんかを読み上げるなんて、なんだか小学校の生徒にでもなったような気分。音読が終わると裁判官が、「嘘の証言をすると、証人であるあなたは偽証罪に問われ、被告人であるあなたは相応の量刑が科せられますのでそのつもりで。」などと釘を刺す。このへんで小心者のオレは結構どきどきしてしまう(^^;)。いきなり"罪に問われる"なんて脅されるのはイヤだなあ。

 続いて原告側の証人喚問。これは前もって弁護士の先生と打ち合わせしていたので割と楽。それでも時折弁護士さんから、「そんなに早口じゃなく、まず結論から答えなさい」などと注意されてしまった。やっぱ人間って、ああいうところに出ると緊張して上がっちゃう物なのやね。それでもまあまあ、聞かれることの予想はついてただけに何とか乗りきったかな、って感じ。でもやっぱり打ち合わせのときと違うことを言っちゃって弁護士さんを困らせたりしてないかな、とかいう気にはなっちゃった。うーん小心者。

 原告側に続いては被告人の弁護士さんによる証人喚問。こっちはホントにどきどきしたですよ。一応こっちに非はない、って自信はあるんだけど、白のものを黒と言い換えてしまうのが弁護士の能力、ってのはいくつもの小説なんか読んでて何となく頭の中にあるもんだから、一体どんな質問が飛び出して、それにこっちが答えていくうちに、そこからどんな(アクロバティックな)ドンデン返しがおこるか、判ったもんじゃないよなあ、などと気になってたのね(変な小説読みすぎだって)。

 小説のような鮮やかなドンデン返しはなかったんで一安心だったけど、やっぱり圧倒的に不利な(契約しておいて仕事してなかった、ってのはこちらの督促FAXなどの資料で明らかだからね)状況下で、ある程度は(仕事をしなかったことも)やむを得ないのだ、という印象を裁判官に持ってもらうために、被告側の弁護士はいろいろと手練手管を使ってくるものだなあ、とは思ったね。つまるところ、むこうとしてはこっちの怠慢がこの状況を生み出してしまったんだ、って形に話を持っていきたかったみたい。オレ自身、怠慢じゃない、と胸を張っては言えないよな、ってな反省もあったんで、ここを突かれるとどうしても返答に詰まるところが多かったかな、と後で反省してしまった。ただ、弁護士さんはゲームを作る、って作業がどういう物なのかを正確には把握できていないので、そういう点では救われた部分もあるかもしれないね。突っ込まれるほうがいうのもなんだけど、突っ込みが浅いわ(^^;)。

 てな具合で両者の喚問が終わると、こんどは裁判官がいくつか質問する。これは、事件の内容を裁判官が把握する上で、不明な部分などをはっきりさせるためのもの。担当の裁判官の方は初老の女性ってこともあり、さらに原告はゲーム屋、被告はアニメ屋という極めて特殊な職種であることもあって、基本的な用語の解説に終始。「ラフコンテとラフスケッチはどう違うの?」「ラフがあるのなら、それを使ってゲームを作ることはできないの?」でええええい!(^^;)。テクニカルタームを再定義することの鬱陶しさってのは、それに関らない人にとってはわからんモノなんだろうなあ。

 知らないが故の(それゆえキレたらいかんのだろうけど、そういう仕事をそこそこやってきた側としてはそうもいかん)素っ頓狂な質問にたまりかねて、「あの………」と勝手に発言しそうになるのを弁護士さんに止められる一幕もあったけど、そんなこんなで原告側証人の喚問は終わり。同じことを被告にもやって、次の公判の日取りを決めて裁判は終了。きっかり2時間。はあ、なんだか疲れた(^^;)。

 個人的には、今までわからなかった被告氏の仕事の対する考え方の一環がこちらのそれと著しく乖離してたんだなあ、とか、それなりに思うところもあったんだけど、裁判自体は被告にすでにほとんど支払能力がないことなどもあって、なにやら無駄なあがき的な気分もなくはないんだけどね。とりあえずめったにない経験はさせてもらいましたわ。

 どうでもいいけど地裁にあった喫煙スペースがなんだかよさげでそっちの印象が強かったなあ。こう、バス停みたいにアクリルのちっちゃい屋根がついたベンチで、屋根のサイド部分に換気扇がついてて、タバコを吸っても煙が周りに拡がる前に換気扇に吸い取られるしかけになってるのね。ここでタバコ吸うのはなんだかカッコ悪いけど、とりあえず周りにいやがられないって部分では最強だよなあ、とか思ってしまった。ちい、デジカメ持っていって撮影しておくんだったぜ(^^;)

2000/12/20

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