「赤い予言者」

表紙

オーソン・スコット・カード 著/小西敦子 訳
カバー:藤田新策
角川文庫
ISBN4-04-278702-9 \838(税別)

 "7番目の息子のそのまた7番目の息子には特別な力が宿る"といういいつたえのもとにこの世に生を受けた少年、アルヴィン。言い伝えどおり彼には特殊な力が備わっていた。それはあらゆる自然のものごとに働きかけ、ものごとをアルヴィンが望む方向に進めてやる能力。使い方を誤れば、自らを邪悪な存在にしてしまいかねないこの能力の正しい使い方を、彼は幻影のような"シャイニング・マン"から教えられ、人々のためにだけ、使うことを決意する。

 ………というのが、前作「奇跡の少年」のおおざっぱなお話。ここに、我々が知っているのとはちょっと違う歴史の進み方をしている18世紀末の世界の描写が加わって、じっくり読ませるお話になっておりました。本書はその続き。じっくり度は変わらず、しかしながら世界の動きは急転直下の予感も含んでいます。その中で白人に虐げられ、爆発寸前のインディアンたち、彼らをまとめる勇敢な戦士、タクムソー、さらには"シャイニング・マン"との出会いを果たすアルヴィンの運命は………

 現代アメリカを代表するSF作家、カードの、これはライフワークとして書き綴られる作品なんでしょうかね。じっくりと腰を落ち着けて、アルヴィンという少年を軸に、カードのアメリカ史を綴っていこうというような………。

 前作で自分に秘められた力を知り、その使い方を憶えはじめたアルヴィンですが、10才となり、生れた家を離れ、別の餅の鍛冶屋に弟子奉公に出かけたところから、今回のお話はスタートします。アルヴィンの行く手には、白人の支配に反旗を翻そうとするインディアンたち、酒の力で白人に飼い馴らされてしまったインディアンたち、アメリカ大陸の覇権を握ろうとする独立派の白人、フランスの支配権を確立しようとする一派(その中にはなんとナポレオンまでもが含まれています)、さらにはアルヴィンの特殊な力を狙う「破壊者(アンメイカー)」なる存在までも入り乱れて………、って話なんですが、本書で一番筆が割かれているのは、やはりアメリカ大陸の先住民族であるインディアンたちということになりますか。

 自然を「征服し、制御すべきもの」と捉える西欧の近代文明に対し、その他の文明圏の中には、自然は「共存するもの」であるという思想のもとに成立しているものもあるわけで、そういう、全く異なる思想をもった文明が衝突するときに、そこに起きる悲劇の大きさがなみなみならぬものであることは、歴史をちょっと見てみるとわかることなんですけれども、この世界でもやはり、自然と共存し、自然から物をとるときには常にその許しをえて、必要なだけをわけてもらう、とするインディアンたちの考え方は、別な世界からの荒っぽい文明の前に踏みにじられてしまいます。現実のアメリカの歴史では、この流れはとどまることなく現在まで続いているのですが、さてアルヴィンの世界ではどうなのか。

 本書のテーマとは少々離れることになるのかもしれませんが、そんな"カード史観"(のようなもの)の一環に振れるような部分もあって興味深いです。読ませるお話で、先が気になる一冊。もう少し刊行ペースを上げてもらえたら、と思うのですが、これは作者にお願いすべきなのか訳者にお願いすべきなのか、うーむ(訳者の後書きを見ると、親本は1988年刊。むう、やっぱ訳者の小西さんにお願いするのが筋かしらん(^^;)

99/12/10

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