萩史郎 著
装幀:柿木 栄
双葉文庫
ISBN4-575-50701-6 \857
真っ黒なカバーに空けられた三つの小さな丸い穴、そこから覗く本自体の表紙のオレンジ色、というユニークな装幀で気になって買った本。船戸与一さんの推薦も、まあ買おうって気になった一因かもしれないけれども。全然予備知識なしに買った本ですが、内容的にはアウトローモノというかハードボイルドモノというか、そんな感じかな。
広島県の尾道で、スナックで雇われマスターとして働く一人の男、破崎。あるい日いかなる偶然か、彼の店には見覚えのない客が、それも複数やって来た。ただの一見の客にしては彼らの立ち居振る舞いには何かおかしなところがある。不審に思う破崎のまわりには、それ以降不可解なできごとが連続するのだった。
まあ当然主人公の破崎、ただのスナックの雇われマスターだけの存在でないことは明らかで、その正体は実は・・・・ってことになるわけで、ここに戦後腕一本でのし上がって来た財界の大物の影として手腕を振るって来た初老の男やら破崎に惹かれるスナックのママ、かつての"仁義なき戦い"のモデルケースとなった広島ヤクザ抗争で名を上げたヤクザ者の彼女の父、破崎自身の背景なども加わった骨太のハードボイルド。
なかなか、読ませる小説で掘り出し物といえると思うのですが、それでも少々引っかかりもなしとはしません。一番の問題は、肝心の主人公、破崎にイマイチ必然性というか、動機のようなものが稀薄なこと。本書ではもう一人の主要な登場人物である初老の男、伊坂のほうがかなりじっくりと描き込まれているのに対して、破崎の描写にどうも物足りなさがつきまとうんだなぁ。
これは破崎を主人公にするシリーズモノの一作なんですかね。登場人物とか見てると、そう思えないところもないんですけれども。だったら続編も楽しみなんですが、これ一作だけってことだと、ちょっとなぁ(^^;)
99/12/6