「飛翔せよ、閃光の虚(そら)空へ!」

スコーリア戦史(1)

表紙

キャサリン・アサロ 著/中原尚哉 訳
カバーイラスト:山下しゅんや
カバーデザイン:ハヤカワ・デザイン
ハヤカワSF文庫
ISBN4-15-011292-4 \880(税別)

 数千年の昔、人類と種の起源を同じくする種族が生れた、彼らは宇宙航行能力を手にして栄え、そして一度は滅亡寸前まで行きながら立ち直り、再び銀河に勢力を伸ばしつつある。この二つの勢力、ユーブとスコーリアに、21世紀になってようやく宇宙に進出し、両種族間で中立を保つ地球人類を含めた3つの種族が共存する宇宙。だが、ユーブとスコーリアはその種族的な特徴が全く異なり、お互いに決して相容れることのない存在だったのだ。

 強力なエンパス能力を持ち、スコーリア王圏の支配的な階級となるローン系サイオンと呼ばれる種族の一人にして王位継承権を持つ美女、ソズことソースコニー。その強力な超能力を駆使し、宇宙戦闘艇に常人には不可能な運動能力を発揮させて戦う"ジャグ戦士"の一員でもある彼女が出会った男性、ジェイブリオル。その容貌、雰囲気に心惹かれるソズだったが、彼には大変な秘密があった。彼こそ敵国、ユーブの正当な王位継承者であったのだ。苦痛に対する耐性を極限まで高め、その反動で不完全な共感能力を持ったがゆえ、強力な共感能力をもつサイオンの苦痛を感じることが最大の快楽となるユーブのアリスト階級人であるはずなのに、その邪悪な気を感じられないジェイブリオル。彼に秘められた秘密とは。そしてソズとジェイブリオル、スコーリアとユーブの恋と戦いの行方は………

 宣伝文にいわく、"アメリカ版『星界の紋章』"だそうですが、うーむそうでもないやろ(笑)。むしろこれはマキャフリイ的なハーレクインSFからこっぱずかしい部分を排除して、かわりにリンダ・ナガタら、新しい女流SF作家たちの感覚と、よく考えられたSF的アイディアを盛り込んだ作品といえるのではないか。使い古されたシチュエーションとみせかけて意外に新しい設定や、ステレオタイプに見せかけて実は一味違うキャラクターを持ちこんでいる、ってあたりで、何となくわたしには"女性作家版シーフォートモノ"って感じがするんですがそうでもないっすかね。

 娯楽SFとして及第点以上の面白さであるのは確か。その邦題(ちょっとピント外れ)やカッコよさげなカバーイラストから、ハデなスペースオペラを期待してるとちょっとスカ引いた気分になるかもしれないけど、これはこれでいいです。充分面白かった。んがしかし、敵対する二大勢力のそれぞれ最高位に近い、一種の貴族階級に属する美男美女の恋と冒険、ってえ図式自体にはそれほどひねりが加わってはいないわけで、そこは少々不満あり。お話のバックボーンが結構古めかしい、っていうか「またそれかい」的な気分になっちゃってねえ(^^;)。そこだけちょっと、残念かも

 このシリーズ、一話完結でそれぞれ主要な登場人物なども異なった連作シリーズってことで、本書だけがたまたまそういう話だったのかもしれないですけれども、それでも、今さら王子様とお姫様のお話でもなあ、って感じがしたのは確か。こういうのはやっぱ女性が潜在的に抱いている夢なのかしらん(^^;)。

99/12/1

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