「斉藤家の核弾頭」

表紙

篠田節子 著
カバー装幀:横山えいじ
朝日文庫
ISBN4-02-264218-1 \660(税別)

 国家システムの肥大、国民の意識の荒廃、さらに首都圏を直撃した大震災を経て、「国家主義カースト制」が布かれ、超管理社会に変貌した2075年の日本。すべての国民は厳密なランクづけがなされ、そのランクによって享受できる権利や果たすべき義務に大きな差がつけられたこの社会で、斉藤家の家長、総一郎のランクは特A級。だが、ちょっとした国家の方針変更の煽りを受け、総一郎はその第一級のランクは保持したものの、職を解かれ一種の就職浪人状態の日々を過ごしていた。太田道灌まで遡ることのできる斉藤家の地所にへばりつくように。だが、総一郎の最後の寄りどころともいうべきその先祖伝来の土地にも、国家による立ち退き命令がやってきて………

 「女たちのジハード」で直木賞を受賞した、篠田節子さんの一種の近未来ディストピア小説。ああまた本来SF陣営の作家が書くべき物語が、他のジャンルの作家によって描かれてしまっているぞ(苦笑)。

 言ってみれば「1984」+「パパの原発」に橋田寿賀子的日本家庭のウジウジしたやるせなさをスパイスとしてふりかけたような作品(笑)といえるでしょうか。作家がその想像力でもってありえない、あるいはあり得るかもしれない未来像を描き出している、って部分でこれは紛れもなく立派なSF。しかもそのお話が面白い。

 国家による、人の感情を全く考慮しない政策の押しつけに対して、ちっぽけな一家族が立ち向かう、ってお話のパターンはこれまでにもいろいろあったと思います。たいていはスラプスティック・コメディでしたが。本書もこのパターンにありがちなスラプスティックな面白さはしっかり持っていますけれども、ここに橋田寿賀子テイスト(笑)が加わることで、凡百の作品とは一味違った作品にしあがっていますね。

 大変楽しく読ませていただいたんですが、いったい日本のSF作家の皆さんは何をやっておられるんでしょうか?なんか最近、SF畑以外の人の書く本格的なSF作品にはちょくちょくお目にかかるのに、なんで本家本元からはおもしろい作品が出てこないんでしょうねえ。僕に見つけられないだけなんだったら、いいんですけど。

99/11/29

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