「心の鏡」

表紙

ダニエル・キイス 著/稲葉明雄・小尾芙佐 訳
カバーデザイン:ハヤカワ・デザイン
ハヤカワ ダニエル・キイス文庫
ISBN4-15-110108-X \640(税別)

 人の心の微妙な傷を描くキイスでなく、SF作家としてのキイスの魅力を堪能できる短編集。SFファンならやはり、本書に収録されている中編版の「アルジャーノンに花束を」のほうに魅力を感じるのではないかな?じっくりと主人公チャーリィの知能の進化と、それに伴うまわりの反応や自分自身の心のなかで大きくなる葛藤を描いていく長編版もいいのですが、少々余分にみえるエピソードを思い切りよく刈り取った中編版も、また大きな魅力にあふれたものとなっていると思います。

 基本的に作品の少ないキイスのこと、本書に収められている作品、一作を除いて他はすべて1970年代以前に書かれた作品なのですが、さらに、問題の(^^;)「アルジャーノンに花束を」あたりを境にお話の傾向がちょっと変わっているように感じられるのが興味深いところですね。具体的にいうならば、「アルジャーノン」以前が実にこの、オーソドックスな「SF〜」って感じだったのが、「アルジャーノン」の後あたりから、今われわれがキイスと聞いて連想する、人の心の奥底を描く作家、っていうイメージに近いものが感じられてくるんですね。

 んで基本的にオヂサンSFファンの僕としては、やっぱそこはかとなく懐かしさの漂う'50から'60年代のSFを読むとなんとなくほっとしちぃますですね。最近の作品に近くなるにつれて、ちょっと才走った分、こっちに訴えてくるもんにストレートな感動が欠けているかなあ、とか思ったりしてね。(^^;)

99/11/26

前の本  (Prev)   今月分のメニューへ (Back)   次の本  (Next)   どくしょ日記メニューへ (Jump)   トップに戻る (Top)