「クローディアの告白」

表紙

ダニエル・キイス 著/秋津知子 訳
カバー装画:恩田和幸
カバーデザイン:ハヤカワ・デザイン
ハヤカワ ダニエル・キイス文庫
ISBN4-15-110109-8 \640(税別)
ISBN4-15-110110-1 \640(税別)

 1982年、「24人のビリー・ミリガン」を発表してしばらく経ったキイスの許を、一人の女性が訪れた。若くセクシーといってもいいほど美しい女性、クローディア・エレイン・ヤスコーは、キイスに対して自分の物語を語りたいから、その話を本にして欲しいと依頼する。彼女の物語、それは1970年代の終わり、オハイオ州を震撼させた、「22口径連続殺人」にまつわる物語。いったんは重要な容疑者として逮捕された後、無実と判明して釈放されるに至るまでの一部始終。真犯人は別に存在し、すでに事件は一応の解決をみてはいたのだが、クローディアの供述のいくつかには、事件に深く関っていなければ知りえないことがらも含まれていたのだ。クローディアの心の奥底に、いったいどんな真実が潜んでいるのか。取材を開始したキイスだったが、彼はやがて自分が相手にしているこの美しい女性には、大きな問題があることがわかってくる。彼女は長年精神分裂病に悩んでおり、その分裂気質ゆえにその言動は二転三転していくのだ。心の病にガードされた真実を明らかにするための、キイスの長い苦闘の日々が始まった………。

 ダニエル・キイス文庫の今月分登場です。多重人格者の物語を克明に綴ったキイスの許には、同じような心の病に悩む人々から、きっといろいろなコンタクトがあるのでしょうね。そんな中から新たにテーマとして選ばれたのは、精神分裂病。

 ビリイ・ミリガンの物語が、多重人格ゆえに自分の基本人格が関与できないまま、犯罪を犯してしまう人間の物語であったのに対し、クローディアの物語は、自身は犯罪などに直接関ったわけではないけれども、その事に対して重要な事実を掴める立場にいながら、その事をうまく表現できなかったり、文字どおり忘れてしまったりすることによって、そこから来る小さなしこりのような物によって精神に大きな悩みを抱えて生きる事を強いられる人の悩みを描いているといえるでしょうか。

 こういった、極めて特殊な人格に対しては充分経験を積んできているであろうキイスでさえ、時には怒り、投げ出してしまいたくなるほど昨日と今日の言動が一致せず、しかもその事に対してほとんど罪悪感を感じないクローディアという女性、何というか一種異様な感じがあるのですが、それがつまり精神が分裂しているがゆえにその人にふりかかる重荷のような物なのでしょうか。そのことを自ら感じてもいるクローディアの行動は、その一致しない言動を自らも認識しつつ、なんとか他人に愛されたいと思うあまり、その都度一番相手が喜ぶようなことを口にしてしまう、っていうことなのでしょう。そう考えればクローディアという女性が愛らしくも切ないものを感じられてきます。

 多重人格といい、分裂病といい、きっと世の中が複雑になりすぎたがゆえに顕著にクローズアップされてきた症状なのでしょう。人間に本来許容できる以上の悩みが、世の中にはごろごろしてきたってことなのかな。

 本書の解説は初代スケバン刑事(^^;)、斎藤由貴さん(さすがに"ちゃん"、てわけにはいかんよな)。これが意外に(失礼!)すばらしく、こっちも必読であります(笑)

99/11/25

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