「粗にして野だが卑ではない」

石田禮助の生涯

表紙

城山三郎 著
写真 角田孝司
AD 上野和子
文春文庫
ISBN4-16-713918-9 \448(税別)

 とーとつですが、皆さんは「宇宙大怪獣ドゴラ」という映画をご存じでありましょうか?1964年東宝作品、炭素物質を好物する謎の宇宙生命体と人類の攻防に、国際ダイヤ強盗団と刑事たちの戦いを絡めた娯楽作品。平田昭彦と土屋嘉男が出てないってえことで、キャスティングに少々手薄なところがないでもないですが、そこはそれ、ダン・ユマの怪演が救い(笑)になっておりまして、黄金時代の東宝特撮作品の美点の一つである、超常的な怪物と人類の攻防と、それに同時進行する人間ドラマが上手に絡み合った佳編だとわたしゃ思ったりしておるわけです。

 で、この作品に登場する老齢の科学者、宗形博士がジジイ扱いされた(ちなみにジジイ扱いするのは藤田進さん)事で少々ムッとしていうセリフに、「まだまだワシはヤング・ソルジャーじゃ」ちうのがありまして、このセリフ、少々カミナリ親父的な部分はあるけれども基本的に学究の徒である人物が口にするには少々違和感があるなあ、と前から思っておったわけです。で、この作品が公開された頃、78才という高齢でありながら国鉄総裁の重職に付いた財界人、石田禮助さんが、高齢による危険はないのかと訊ねる記者たちに向かっていったセリフが、「体に自信はある。気持ちはヤング・ソルジャーだ。」というものであったのだそうです。件の映画、巧みに時事ネタを取り入れていたんですね(^o^)。

 さて、長い前フリで大変失礼いたしましたが、その「ヤング・ソルジャー」石田禮助の生涯を描いた城山三郎さんのこの本、佐高信さんも折につけ高く評価しておったなあ、などと思いつつ、そのセリフに引かれて読んだわけです。城山さんの本ということだと「落日燃ゆ」以来なんですが、さすがに戦争をはさまない、比較的平和な時期のせいか、分量的に少々物足りないところもあるんですけれども、石田禮助という大物財界人の人となりがなかなかに興味深い作品。

 政財界、っていうだけで何やら銭金勘定のしみついた、汚い人間を連想してしまうんですけれども、中には石田のように、自分の信念に従って、生きざまを曲げない硬骨漢もいるんですね。国鉄総裁を受ける前、彼は国鉄監査役についていたのですが、このとき石田は国鉄という仕事がパブリック・サービスである以上、そのことで給料をもらうわけにはいかない、といって自分へのサラリーは年間一本のウイスキー、のちに格上げして年間12本ですませていたのだそうです。三井物産の腕利き商社マンとして活躍し、老いてもなお知的ゲームとして株をたしなんでいた石田ならではといえるかもしれませんが、なんかこう明治男のやせ我慢みたいな物が感じられてちょっといいですね。この人の半分ぐらいでいいから、自分の生き方に責任を持てる偉い人がいてくれると、日本もずいぶん違うんでしょうけれどもねえ(^^;)

99/11/15

前の本  (Prev)   今月分のメニューへ (Back)   次の本  (Next)   どくしょ日記メニューへ (Jump)   トップに戻る (Top)