「慎治」

表紙

今野敏 著
カバー写真 堤正春
カバー装丁 伊藤桂司
双葉文庫
ISBN4-575-50695-8 \600(税別)

 手遅れか………。
 慎治は思った。中学生ですでに手遅れと言われている。慎治は、本当にそんな気がしていた。この先、生きていても何もできないような無力感があった。

 特に何か打ち込むものがあるでもなく、地味で、目立たない中学生、慎治。そんな彼の弱気な心に付け入るように、クラスでもめだって人気のある三人組が、事あるごとに彼をいじめたり、万引きを強要したりしてくる。その事に悩み、恐れを抱きながらも自分ではそれを跳ね除けようとすることもできない慎治だったが、あるとき、いつものように三人組の強要でレンタルビデオ店でソフトを万引きしたときに、慎治にとっての大きな転機が訪れることになったのだった………

 いやっはっはっは、"オタクは人生を救う"てか(^o^)。万引きをした慎治ですが、その様子は監視カメラに捉えられ、さらにその店には慎治の学校の教師、古池もやってきていました。学校ではうだつの上がらない落ちこぼれ教師にみえた古池ですが、彼は強度のガンダム・マニアでモデラー。彼に出会ったことで慎治はプラモデルの世界にのめり込み、さらにガンダムファンの繋がりから、サバイバル・ゲームや武道の世界にも足を踏み入れ、その過程で彼は、自分を重く支配していた無力感を自力で振り払っていくわけです。この過程で古池や彼の友人たちが熱く語るガンダム世界の解説とモデリングのイロハの描写が絶品。これ一冊で"ガンダム正史"は押さえたも同然(^o^)。古池には著者である今野さんのガンダム観、アニメ観が色濃く投影されているのでしょうね。主人公の名前が"シンジ"なのも、狙ってるんだと思いますよ(笑)

 なんていうととんでもないキワモノのようにみえますが決してそんなことはなく、ガンダムも、サバゲーも、お話の中に上手に取り入れられてて、ジュヴナイルとして非常に出来の良い作品となっているように思います。著者の今野さんがどういう意図でこの作品を書いたのかは知らないですけれども、ちょっと気恥ずかしいけど読むと元気が出る、これは何よりジュヴナイルとして一級品のできではないかと思います(^^;)。

 後から思い出したのですが、今野さんの本を読むのはこれで二冊目でした。一冊めは、パソコン通信の中だけに存在するヴァーチャル・アイドルを追いかけるファンたちのなかでおこった殺人事件をあつかったミステリ、「イコン」。昔のログを見てみたら、パソコン通信なんてさっぱりわからないオジサン(ミステリの読者には多いですよね)に、そこらを教える必要もあって、コンピュータを扱う部分のツッコミはさほどでもないけど、人間ドラマが結構よくできてた、みたいな感想を書いてました。本書も"オタク小説"(笑)の体裁はとってますが、その正体は実は結構ストレートな青春小説であるような気がします。特に若い人に読んでいただきたいな。

 見方を変えてみることが大切だということは、見方を変えてみて初めてわかる。

 いいフレーズであります(^o^)。

99/10/18

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