「五番目のサリー」

表紙

 ダニエル・キイス 著/小尾芙佐 訳
 カバーイラスト 横田美晴
 カバーデザイン ハヤカワ・デザイン
 ハヤカワ ダニエル・キイス文庫
 ISBN4-15-110102-0 \600(税別)
 ISBN4-15-110103-9 \600(税別)

 陽気で社交的なデリー、妖艶なダンサー/女優のベラ、教養豊かなノラ、攻撃的で粗暴なジンクス。4つの人格が一つの肉体を共有する女性、気弱で地味なサリー。時折入れ替わる人格たちのふるまいによって、仕事も長続きせず、気弱な性格に輪がかかっていくサリー。なんとかそんな自分を改善しようと精神科医、ロジャーの許を訪れたときから、サリー、そしてロジャーはサリーの中に潜む異なる4人の女性たちと対峙せざるを得なくなる。はたしてサリーが再び一つのまとまった人格を取り戻すときは来るのか。そしてそもそも、サリーはなぜ、異なる人格と共棲するようになったのか………

 多重人格という存在に真正面から取り組んだ話題作。本作品、そして後に控える"ビリー・ミリガン"物は、本国アメリカのみならず、日本でもたいそう話題になりましたね。"ジキルとハイド"のころには二つですんでいた人格分離は、世界が複雑になるにつれ、その数も増えていくということなのでしょうか。フィクションである本書では、分離する人格は5つでしたが、実在の人物であるビリー・ミリガンは24の人格に分離してしまっていることを考えても、現実の世の中というものがいかに複雑であるかを現しているように思えます。

 なんというか、知的なサイコ・サスペンスで、一種の法廷物を読んでるようなおもしろさにあふれた作品なのですが、その奥底に潜む、今の社会の歪みと、その中で押しつぶされそうになっている人々の姿も垣間見えてくるようです。たとえば、最近なにかと報道される機会も多い、いわゆるドメスティック・バイオレンスなどもそんな"歪み"を反映したモノなのでしょう。その中で、想像を絶する苦痛に苛まれるとき、人はその苦痛をどこに逃がし、その苦痛から自分を切り離そうとするのか。興味本位で語られがちな"多重人格"の裏には、現代社会に潜むとても大きな問題が潜んでいるような気がします。人間は少々、複雑になりすぎたのかもしれないですね。

99/10/11

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