ファースト・レンズマン

レンズマン・シリーズ(5)

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E・E・スミス 著/小隅黎 訳
カバーイラスト 生頼範義
カバーデザイン 岩郷重力+WONDER WORKZ.
創元SF文庫
ISBN4-488-60320-3 \920(税別)

スペース・アンタッチャブル

 三惑星連合軍の結成により、地球の危機をひとまずは回避したヴァージル・サムズとロデリック・キニスン。だが、宇宙を股にかけた犯罪組織の暗躍はとどまるところを知らない。いまや全銀河規模でそこに暮らすさまざまな人々の自由を護る組織の設立が急務となった。だがそのためにはあらゆる人種、いや、あらゆる宇宙人の間で確実に通用する、偽造不可能な身分の証が必要不可欠になる。だが、そんなものがこの世にあるのか? 人が作ったものは必ず人によって偽造されるのだ。

 だがこの難問に救いの手がさしのべられた。それも人類にとってはもっとも謎に満ちた存在である異星人、アリシア人から。アリシア人によって調整された、それを身につけるもののみに同調し、それ以外のものが身につけようとすれば直ちにその相手を死に至らしめ、さらに装着者が死ねばそれもまた消滅してしまう究極の識別装置、レンズ。しかもそのレンズを帯びるものは、いかなる種族であれ、そしていかなる距離の隔たりがあってさえ、瞬時に完全なコミュニケーションを取ることが可能なのだ。このレンズを初めて帯びるもの、光輝あるファースト・レンズマンこそヴァージル・サムズ、有史以前からアリシア人によって慎重に調整を取られてきた地球人類の二つの血統のうちの一つに属する、彼だったのだ。

 「レンズマン」正史から時代を大きくさかのぼり、銀河パトロール隊発足のエピソードを綴るシリーズ第五弾。ハデな宇宙艦同士の艦隊戦が減った(時代的にもそこまで強力な超兵器がまだ生まれてないって事もあり)分、このシリーズのもつ未来の警察小説的側面が強調された作品となっている。そこを楽しめるかどうかだろうね。

 で、個人的には、そういう警察小説的側面が増えて、明るくスケールの大きな(敢えて言うなら脳天気な)スペースオペラの側面がかなりスポイルされちゃったのはちょっと残念かな、と言う感じ。ここまでのシリーズを読んでる人なら、あの恐ろしげな麻薬、シオナイトが最初はどうやって採取されてたのか、とか「空港長官」の由来とか、思わずにやりとするところもあるのではあるのだけれど、全体的なカタルシス、つー点ではここまでの4作に及ばないかなあと言う感じ。生頼さんのカバーイラストは、今回は文句ないのだけどね。

03/08/08

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