夏のグランドホテル

異形コレクションⅩⅩⅥ

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井上雅彦 監修
カバーアート 羽織(imaginarypower)
カバーデザイン 奥沢潔(パークデザイン)
光文社文庫
ISBN4-334-73510-X \895(税別)

これぞ"グランド・ホテル"

 選ばれたものだけがたどり着ける、知る人ぞ知るリゾートホテル。八月一日の夜、そのホテルからしか見ることができない、と言われる流星雨に願いを託した者は必ず幸福になれるという言い伝えと、その影に潜む様々な昏い伝説を併せて語り継がれる伝説的なこの宿に、今年の夏もまた様々な宿泊客がそれぞれの思いを胸に投宿する…。

 というわけで「異形コレクション」最新刊。いつものようにラインナップを。

 今回○印多いです。中井紀夫、森奈津子のリリカル、朝暮三門の奇想、飯野文彦、矢崎存美、南条竹則、牧野修のややスラプスティクなユーモアとペーソス、町井登志夫と薄井ゆうじの本格、そして何とも愛おしい気分に満たされる加門七海の作品。や、すばらしい。

 今回は個々の作品のすばらしさ、と言う部分もさることながら、それらの作品を「夏のグランドホテル」と言うテーマの一枚の絵に仕立てたアンソロジストの手腕をまずは絶賛すべきなんでありましょうな。ホテルの由来、構成、そこにまつわる伝説、みたいなものの設定を前もって(緩すぎず、きつすぎず)決めておき、その中で作家たちに自由に想像力を羽ばたかせることを許しつつ、肝心なところは離さない。このあたりの手綱捌きの見事さに拍手したい。形式としての"グランド・ホテル"がうまいこと表現されてるなあ、とにやりとしてしまう部分もあるし。

 地味なテーマかな、と思ったんだけどこれ、シリーズ屈指の一品かもわからん。出来損ないの教会みたいなカバーのホテルのイメージがどうにも気に入らない以外は、ほぼ文句なしの一冊ですわ。ホラー苦手の私が楽しめた、ってのはいいことなのかそうでないのか、判断つきかねるところもあるけど。

03/08/01

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