手塚治虫COVER

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デュアル文庫編集部 編
カバーイラスト 寺田克也・村田蓮爾
カバーデザイン WONDER WORKZ(海老原秀幸)
徳間デュアル文庫
タナトス編:ISBN4-19-905140-6 \743(税別)
エロス編 :ISBN4-19-905141-4 \743(税別)

「0マン」はないのか…

 手塚治虫のマンガを読んで育った世代による、手塚マンガをモチーフにしたオリジナル短編集。メンツはかなり豪華。タイトル、著者、そしてタイトルごとの表紙イラストの担当は以下の通り。

 なんていうか、その人らしさが存分に発揮されているって点ではお買い得なアンソロジーなんじゃないだろうか。「エロス編」に入れても良かったんじゃないかと思える五代ゆうの作品、うやむやになった「弥勒戦争」の後日譚、みたいな香りのある山田正紀、肝心なところをダジャレで持って行く田中啓文、忠実に手塚世界を文章化した上で、そこに自分の味を上書きする(うまいっ)梶尾真治、その作品中に登場したオリジナル設定、「メルモ因子」の元ネタになるメルモを文章化する大塚英志は不必要なくらいに理屈っぽく、森奈津子は相変わらずエッチくさく、井上雅彦はここでも端正なスタイルを崩さない、と。

 そんなわけでそれぞれに作者の持ち味が充分でてて、なかなか楽しめる本だったんだけど、手塚治虫のカバーアルバム、として見るとさてどうだろう。文章中でいくらヒョウタンツギが出てきても、ランプの後ろにろうそくが灯っても、それだけじゃあ手塚マンガを文章にしたとは言えないわけで、作者それぞれが手塚マンガの、表層から一段深いところに掘り進んでそこに何を見たのか、を描いて見せてくれていて欲しいと思うわけなんだけど、そこまでやってくれているのは案外少なかったかも知れない。「笑点」やってんじゃないんだから、お題をもらってそれを自由に料理して、だけじゃちょっと淋しいと思うわけ。

 そういう意味で個人的に気に入ったのは(なぜか暗かったり、救いがなかったりする話ばかりになってしまいますが)五代ゆう氏、太田忠司氏、牧野修氏の作品、って事になるかな。手塚マンガが持っている暗い、冷たい部分をとても上手に引き出した作品になっていると思うわけです。ただし、その上で、やっぱり手塚マンガからは「明るい何か」を分けてもらいたいと思っている私個人はこれらの作品以上に、唐沢さんのマンガが気に入ってしまったりしてな。マンガに対する返礼は、やはりマンガでやるべきでしょう、とも思ったりするし。

03/07/21

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