デス・タイガー・ライジング 1

別離の惑星

b030714.png/6.0Kb

荻野目悠樹 著
カバーイラスト 久織ちまき
カバーデザイン 岩郷重力+WONDER WORKZ
ハヤカワ文庫JA
ISBN4-15-030722-9 \700(税別)

どうしてこんなに恥ずかしいんだろう

 二重太陽系で構成されるマサ・キティ星系。その片方、マサ・キティ・ベータ星系には、言いしれぬ不安が募っていた。1000年の周期で接近するもう一方の太陽系、マサ・キティ・アルファ。その太陽の最接近が引き起こす「夏」は、過去にもベータ星系の文明に破壊的な打撃を与えていたのだ。アルファ星系に対して住民の一時的移住も打診されたが、多国間での争いの絶えないアルファ星系ではベータ星系の要望を受け入れる余裕などありはしない。ここにいたってベータ星系首脳はアルファ星系への武力侵攻を決意する。切り札は自星系の謎の遺跡から発見された過去のオーバーテクノロジー、(ジュエル)。そしてもう一つ、「虎」と呼ばれる超兵士の部隊………。

 1000年に一度の大災害、異星人(かも知れない)超種族の残したオーバーテクノロジー、最強のサイボーグ兵団、政治と産業を牛耳るいくつかの名家、打算で動く名門に属したが故、悲しい恋の定めに翻弄される男女………と、まあそう言う話。全体的に、どこかで見たような設定とどこかで見たようなシチュエーションが続くわけなんだが、お話を「読ませる」技術って部分については、著者の荻野目悠樹さんって方、そんなに悪くない、楽しめるお話を書ける人かも、と思った。あちこちで引っかかってしまうけど、それでも最後まで読めたもの。

 ただなあ、なぜかこの本、読んでて妙に恥ずかしくなってくるんだよな。お話が恥ずかしいんじゃなく、読んでるこっちが妙に恥ずかしい気持ちになっちゃうの。で、なぜだか考えてみると、このお話、と言うかこのノリって、自分が青二才の頃、生意気にも「へっ、オレならもっと面白いスペースオペラ書けるぜ。これをこうして、あれをあーやって、こんな人物を登場させてだな…」なんて妄想してた頃の、脳内だけで動いていたお話の一本にかなり似たところがあるのだよね。で、そんな、自分の頭の中で空想してた物がいきなりぽん、と目の前に、本の形になって現れたのを見て、なんかこう落ち着かない物を感じてしまっているのだなあ、と。

 青二才が頭の中で考えただけのお話と、実際にそれを本の形になるまでに持っていたお話とでは、それはもう完成度の点でとてつもない隔たりがあるのはあたりまえなんだけど、それでもこの、設定のありようとかネーミングのセンスとか宇宙での艦隊戦の描写とかに、ガキの頃空想してた物が実体化した物を見るような、妙な恥ずかしさを感じるわけです。

 あ、念のため。本作品がガキの空想をそのまま文章にした、と言ってるのではないですよ。読み物としては一定の水準をクリアしてると思うのです。読んでるこっちが、勝手にどうしようもなく恥ずかしい思いを持っちゃう作品だなあ、と、そういうこと。ただし本作、このお話ならではのオリジナリティがあんまり感じられない(正直言ってこの作家のスタイルがどういう物なのか分からない)んで、続きが出た時に買うかどうかはかなり微妙なとこなんですが。

03/07/14

前の本  (Prev)   今月分のメニューへ (Back)   次の本  (Next)   どくしょ日記メニューへ (Jump)   トップに戻る (Top)