マルドゥック・スクランブル

The First Compression 圧縮

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冲方丁 著
カバーイラスト 寺田克也
カバーデザイン 岩郷重力+WONDER WORKZ
ハヤカワ文庫JA
ISBN4-15-030721-0 \660(税別)

煮え切らないネズミと固ゆでのターミネーターの戦い

 何度目かの戦争のあと、人類はついに戦争にまつわる様々な技術者の存在を明確に「悪」と定義、彼らの存在とその技術が、社会にとって有用であることが証明され続ける場合にのみ、その存在が許容される社会を作り上げていた。かつては超一級のエンジニアであったドクター・イースターと彼が中心になって開発した、ネズミの形を借りた可変型超兵器、ウフコックも、今は"委任事件担当官"として、担当した事件を解決していくことで社会の中で生き続けている。今、彼らが追っているのは巨額のマネー・ロンダリングにまつわる事件。その中で決定的な役割を果たしていると思われる一人の大物ギャンブラーを追ううち、ドクターとウフコックは一人の少女と出会うことになる…。

 超常的な空間認識能力と、あらゆる電子装置を支配する能力を秘めた皮膚を移植された綾波系美少女(いろいろワケあり)、複数の次元にわたって存在し、使用者が望むあらゆる形態に変形できるスーパーウェポンネズミ、戦争の技術が、人々に有用であると認められたときのみ、その存続を許される世界(もちろん、だからといって世界が平穏なわけではない)…などなど、じつにこう、売れセンなフィーチャーを惜しげもなく注ぎ込んでみました、な作品。それら売れセンなネタが次々と繰り出されるので、どっかで見たような話だな、と思いつつもとりあえずは退屈はしない、というかかなり楽しい。

 言ってしまえば陳腐なシチュエーションをありがちなシノプシスでつないだ作品、なんだけどそのつなぎ方が非常に上手で大変に楽しめるエンタティンメント作品に仕上がっている、といえるかな。言葉遣い、というか言葉遊びのおもしろさと、肉親から強要された性交とそのトラウマ、という意外にむずかしいテーマをかなり上手にバックグラウンドに用意しておきながら、そこに深入りしてにっちもさっちもいかなくなることを上手に回避しつつ、あくまで痛快なエンタティンメントに仕上げてみせるあたりの手腕はなかなかのもの。こりゃノーマークだったんだけどちょっと続きに期待したいです。

03/07/10

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