異星人情報局

b030629.png/4.7Kb

ジャック・ヴァレ 著/磯部剛喜 訳
カバーイラスト 加藤直之
カバーデザイン 岩郷重力+WONDER WORKZ
創元SF文庫
ISBN4-488-71801-9 \900

トンデモの文脈までまじめに考察したのかな?

 法律事務所に勤務する女性、レイチェルはある夜異常な体験をする。帰宅途中突然車が止まり、そして上空に現れた不思議な光に取り込まれ、異様な生物たちに取り囲まれていたのだ。UFOによるアプダクション? 手がかりを求めて名の通ったコンタクティの元を訪れるレイチェルだったが、納得のいく説明は得られないまま。同じ時、同じ場所には一人の冴えないテレビ・ジャーナリストの姿もあった。かつては敏腕でならしながら一度のミスが元で今はゴシップ番組のプロデューサーとして日々を送るピーター。しかし今、彼は手がかりを求めるレイチェルの姿に、何か気になる物を感じ取っていた………。

 フランスの高名なUFOとそれにまつわる様々な現象の研究者による、UFO現象を題材に取ったフィクション。「未知との遭遇」でフランソワ・トリュフォーが演じていた科学者のモデルとなる人物こそ、この本の著者、ジャック・ヴァレさんなのだそうだ。なんかそういう話を聞くと、つい巨大UFOを前に恍惚とした表情を浮かべるじいちゃんを連想しちゃうけど、とりあえず本書ではそっち系のUFOマンセー、な表現はないから一安心。

 長年にわたってUFO関係の事実調査を行ってきた著者だけに、我々がテレビ番組や超常現象系の雑誌などで眼にする様々なキイ・ワードを上手に小説の中に取り込み、巻末でそれらの単語について詳しい説明がなされているこの本の最大のウリはここだな。用語解説と首っ引きで本書を読んでいくと、UFOとそれにまつわる様々なものごとについて、一通り判ったような気になれてしまう。

 で、お話を楽しみながらUFO関係の事情通になれちゃったりすると一番いい訳なんだけど、残念ながらそこまで良くできた本じゃあない。お話の方があまりにこの、芸がないというかなんというか。トンデモなのか、そうでないのか、UFO現象の様々な虚実を明らかにしていきながら、お話の流れ自体はほとんどもう落合信彦の謀略暴露モノに近いノリで、どう見てもトンデモ・フィクションにしか思えない展開になっちゃっているのがなんとも頭を抱えてしまう。もうちょっとなんとかならなかったのかな。現在巷に流布している様々なUFO情報は、何者かが意図して、適度にトンデモ性を付加した形で、注意深く流されているモノなのだ、というノリはかなり興味深いのだけど、それをやってる黒幕の描写はあまりにステレオタイプ。主人公は行く先々で情報を入手するんだけど、もう一度話を聞きに行ってみるとその情報提供者は不可解な事故で死んでる、なんて展開にも失笑してしまう。ラストに至るどんでん返しも「ハァ?」ってなノリだし。

 巻末の資料はそれなりに役に立つんだけど、物語側はどうにもトホホですな。直之さん、なんだってこんな本のカバーイラスト描くんだろう(^^;)。

03/06/29

前の本  (Prev)   今月分のメニューへ (Back)   次の本  (Next)   どくしょ日記メニューへ (Jump)   トップに戻る (Top)