襲撃!異星からの侵入者

銀河の荒鷲 シーフォート(7)

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デイヴィッド・ファインタック著/野田昌宏 訳
カバーイラスト 山本えみこ
カバーデザイン ハヤカワ・デザイン
ハヤカワ文庫SF
ISBN4-15-011434-X \940(税別)
ISBN4-15-011435-8 \940(税別)

困ったヤツがまた一人

 植民惑星ホープ・ネーション。広大な農園を主体にした、のどかなこの惑星も、かつては謎の異星生物"魚"との戦いの最前線だった。ニック・シーフォートらの献身的、かつ悲劇的な活躍のおかげで、今や"魚"の脅威は取り除かれたこの星にはしかし今、新たな問題が持ち上がろうとしていた。地球との不均衡な貿易状態を是正し、より完全な独立国家たろうとする勢力と、教会の勢力を背景にホープ・ネーションの全権を握ろうとする地球側の間で、水面下の勢力争いが続いていたのだ。そんな不安定な状況下、久しぶりに地球からやってきた大型宇宙艦"オリンピアッド"に14歳の少年ランディは胸をときめかす。地上に降り立った若い士官候補生たちとうち解けあい、首尾良く"オリンピアッド"の見学を許可され、ディナーにも招待されたランディは、そこで大きな衝撃を受けることになる。"オリンピアッド"の艦長はニコラス・シーフォート、ランディの父、デレク・カーを死に追いやることとなった張本人だったのだ………。

 「鬱だ氏のう」スペースオペラ第7弾。もう充分初老、って年代も通り越してしまったけれど、相変わらずシーフォートの頑固っぷりも過剰なまでの公平無私っぷりも衰えることを知らない。今回はここに、思ったことを考えなしに口にしてしまう、利発ではあるが直情径行で激しやすい14歳の少年、ランディが加わって、二人でそこら中の面倒を次から次へと引き寄せる結果になっちゃっている。しかもどうしたことか(いやまあ理由はあるんだけど)シーフォートはランディを気に入って、何くれとなく彼をかばうもんだから、ランディが面倒を呼び込む、シーフォートがそれをかばって面倒ごとがさらに大きくなっていく、という不幸のデフレ・スパイラルは加速しまくり。このシリーズの名物、いい人は次から次へと死んでいく、って構造も健在。

 このシリーズ、シーフォートがとにかく信心深い偏屈もので、自分の選択が悲劇を呼ぶたびに神様を恨み倒し、それでも根っこで信仰を捨てられないあたりで私なんか「だから神様なんかありがたがってんじゃねーよ全く」などと言いたくもなってしまうのだけれど、ここに来てさらにシーフォートをいたぶるかのように、神はともかく、神に仕える連中というのは必ずしも褒められたヤツばかりでもないらしい、って事が明らかになってシーフォートの恨み節はますます加速。しかも自分がすさまじい数の犠牲を払って宇宙から駆逐したと思っていた"魚"まで現れた日には…ってなわけで、いやもうこれでもかの不幸のつるべ打ち。今回のもう一人の主人公、ランディの方もシーフォートとはちょっとベクトル違うけど、やっぱり不幸を呼び込む性格なもんでもう大変なことになっちゃってますな。

 上下巻あわせて約1300ページ、ひたすら折り合いをつけるのが下手な老人と少年が次々と不幸を呼び込んではそれをねじ伏せ、それがまた新たな不幸を呼び寄せて…って展開の末に、ようやくちょっとニヤリとさせられるラストを迎えて読者はひと安心な訳なんですが、それでもこの二人なので、次のお話でもまた、いらん不幸を次々と呼び込むことになるんだろうなあ、と妙な期待を持たせて今回は終了。スタート時は「ホーンブロワー」的な海洋冒険小説のテイストもそこはかとなく漂わせてたこのシリーズも、巻を追うにつれて独自の、「シーフォート」らしさみたいなものが出てきてそこは楽しいんだけど、その分「宇宙を舞台の海洋冒険小説」のテイストはどんどん薄くなって来ちゃって、そういうのも好きな私としては、そこはちょっと寂しいかな、と思ったりもしてしまいますな。

03/03/18

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