鉤爪プレイバック

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エリック・ガルシア 著/酒井昭伸 訳
カバーイラスト 桔川伸
ブックデザイン 鈴木成一デザイン室
ヴィレッジブックス
ISBN4-7897-1980-4 \880(税別)

細かいことは…聞くな、聞いてくれるな

 俺はヴィンセント・ルビオ。そこそこ腕のいい探偵だ。アーニーという頼りになる相棒とともにロスで仕事をしているんだが、今度の仕事はなんだかやっかいそうだ。アーニーの別れた妻ルイーズの一人息子、ルパートが"祖竜教会"という名のカルト教団に深入りしているのを何とかしてほしいというのだ。その教団は過去の栄光に満ちた時代の恐竜たちの姿に立ち返ろうというのだ。ん? 恐竜? そう、俺たちは人の姿をまとってはいるがその正体は恐竜。かつては地上を支配していた、サル上がりの人間どもなんぞより遙かに進んだ種族の末裔なのだ………。

 てことで前代未聞の恐竜ハードボイルド、「さらば、愛しき鉤爪」に続くヴィンセント・ルビオ物の第二弾。今回は時代をさかのぼり、相棒アーニーがまだ元気だった頃のお話。前作ではその謎の死の真相を暴こうと必死にがんばるルビオ、彼がそんなに必死になる亡くなった相棒がどんな人物…あ、いや竜物だったのかがわかる訳なんだけど、このアーニーがまたいいキャラなんだな。ルビオよりは15ばかり年上なんだけど老成したとは言い難く、どうかするとルビオ以上に暴走気味なオッサンなのがなかなか楽しい。総じて今回は脇を固めるキャラがみないい感じ。恐竜社会のオカマちゃんとか、変態はいった大家さんとか、堅物の警官とか、ある意味シリーズ物にする上での布石みたいな物もいろいろ用意してきたのかな。相変わらず人間に化けて暮らしている恐竜たちの暮らしぶりのディティールがさりげなく説明され、そこでも笑いがとれるようになっているあたりはうまいわね。

 今回のお相手は謎のカルト教団で、カルト教団なもんだから当然宗教以外にもいろいろ悪だくみを企ててたりするわけで、謎解きのおもしろさよりもむしろ、ルビオとアーニーのコンビがどたばたとその悪だくみに立ち向かっていく、っていうアクション要素が多めになっている。渋いハードボイルドっていうよりはハリウッド映画でよくある、凸凹探偵(でも、警官でも、刑事でもいいんだけど)のどたばた活劇みたいな感じ。「濃い」キャラのコンビが行く先々で大騒動って構図は、下等な動物である人間が演じてもそこそこおもしろいんだから、そこに人間の振りはしてるけど実は恐竜、ってスパイスが加わればさらにおもしろくなるのはこりゃ当たり前って感じ。その分渋めは減ったし、例によってすれっからしの本読みからすると、伏線バレバレ、みたいなところもあるにはあるけど、まあ堅いことはいわずににやにやしながら楽しむのが吉な本。

 その上で、前作もそうだったようにラストにちょっとほろりとさせる余韻をちゃんと用意してくれてるあたり、うまいなガルシア。しかも今回の余韻は、前作にも増してしんみりする物だったりしたぜ。

 てことで今回も楽しませていただいた。ブリンやシモンズでは重厚な訳をやってくれてる酒井昭伸さんも、なんかはっちゃけて訳されてる感じがしてええねえ実に。次回作も予定されてるらしいけど、今度のタイトルはどうなるんでしょうな(これは日本版のみの楽しみになるけど)。「大いなる鉤爪」とか「長い鉤爪」っすかね(w。

03/03/03

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