黄泉がえり

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梶尾真治 著
カバー装画 森流一郎
カバーデザイン 新潮社装幀室
新潮文庫
ISBN4-10-149004-X \629(税別)

夏の一夜のファンタジイ

 「彼」は宇宙を漂う旅人だった。時折惑星に立ち寄って、その星のエネルギーの一部を自らの身体に蓄え、そしてまた宇宙の旅人に戻る。長い、長い間「彼」はそうして来ていた。だが、今度立ち寄った惑星には、何かいつもと違う物が惑星全体に満ちていることに「彼」は気がついた。不思議な、生き生きとした、名状しがたいなにか。「彼」は自らの力の回復を図りながら、この不思議な物について、少し詳しく調べてみることにきめた。そしてその日、熊本で小さな地震が起きた………。

 その地震のあと、熊本市とその周辺では不可解な事態が頻発し始めた。とっくに死んだはずの人々が、死ぬ直前の年格好のまま、ふっと人々の前に出現したのだ。はじめは何が起きたのかわからなかった生者たちも、理由は未だに不可解ながらも、この「黄泉がえり」の人々が正真正銘、かつて死別した肉親だったり、恋人であったりすることを信じ始めていたのだが………

 この前映画館で予告編(つーかまあ『特報!』レベルだったんだけど)を見かけたヤツの原作。映画の方は草彅ツヨポンと竹内結子主演だそうで、何となく期待できなさそうなんだけど、小説の方はそこはカジシン、なかなか楽しませてくれる。

 死んだ人間が生き返る、ってのはかなりな大事件なんだけど、まず生きている方の人間たちが気にするのが「戸籍を修正するにはどうしたらいいのか」ってことだったりする、とか、その相談を持ち込まれた役所が、前例がないこと故(そりゃそうだ)パニックに陥っちゃう、なんて言うシチュエーション・コメディぽい部分がメインになってお話が進むのが面白いところ。そのうえで一種のファースト・コンタクトSF風味だったり、いかにもカジシンだなあと思わせる終盤のほろりな描写があったりでいい感じ。舞台が地方都市(といっても充分大きな街ではあるんだけど)ってことで、「死者が生き返る」という大事件にも、妙に人々はゆっくり慌てずそれに向き合っていく。時間の流れ、情報への向き合い方が違う場所で起きた事件の展開ぶりもうまく描かれていると思う。東京だったらまずテレビ局に電話しようと考えるところが、ここでは、それより先に「生き返ったんだから、役所に行って生きてるってことに戸籍を直さなくちゃ」って気持ちが先に、自然にわいてくる、ってあたりが、なんだか自然に納得できちゃうんだな。このあたりはうまいなあ。

 個人的には主要な登場人物が少し多すぎて、ラストに向けてちょいとしみじみ感というかほろり感というか、そんなモノの盛り上がり方が今ひとつ、と感じてしまって、すばらしくいい!ってとこまでは行かなかったのがちと残念。もうちょっと、メインのキャラクタの数は絞っても良かったのじゃないかな、とは思った。それでもやっぱりちょっぴりほろりとさせられるんだけどね。

 それはそれとして、カバー裏の惹句、「泣けるリアルホラー」ってのはなんだかなあと思ったぞ。死者が生き返る→それはゾンビだ→んじゃホラーね、つーのはあまりに短絡的ではないかね。「こんなにヘンだぞ!『空想科学読本』」の中で山本弘氏がなかなか良いことを言ってる。こんなのだ。

 「幽霊に出会ったら悲鳴を上げて逃げるのがホラー、幽霊とお友達になるのがファンタジー、幽霊を捕まえて研究するのがSF」

 これに沿って考えるなら、このお話はファンタジーとSFの中間あたりに位置する作品であるとは言えると思うけど、断じてホラーではないと思うんだけどね。ちと安直なカテゴライズ過ぎやしませんかね。

02/12/14

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