青い虚空

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ジェフリー・ディーヴァー 著/土屋晃 訳
カバー 花村広
文春文庫
ISBN4-16-766110-1 \829(税別)

とにかくスペルが重要なんだ

 Univacの一号機が納入された記念日、3月31日。自らのwebサイトで女性のための護身術を紹介しているララ・ギブスンと言う女性が殺害された。被害者の心理的なスキを巧みについた犯人の接近方法、犯行に際して周囲の携帯電話を一時的に圏外の状態にしてしまっているそのスキルから、カリフォルニア州警察コンピュータ犯罪課は、犯人を高度な技術を持ったクラッカーであると推定、犯人に対抗するため、今は刑務所に収監されているこれまたかつての凄腕ハッカー、ジレットの協力を要請する。捜査陣に加わったジレットは、その手口と高度な技術から、犯行の陰にある人物は、かつて物議をかもしたオンラインRPGに精通し、かつ高度なハッキング技術を持った、ウィザードクラスのハッカー/クラッカーであると推定する。そう、fではなくphで始まる綴りを持つ、"フェイト"と呼ばれた伝説的なクラッカーである、と…。

 ディーヴァー最新作。ウィザードレベルの伝説的クラッカーがゲームマスターのレベルに達した、とあるゲームでのロールをそのまま現実世界に持ち込んで起きる連続殺人と、それを追うこれまたウィザードレベルのハッカーと、彼をサポートする警官チームの頭脳戦を描いてなかなかの読み応え。単純なハッキング合戦じゃなく、そこにネットワークゲームでの人格をなす上での人間工学(ソーシャル・ワーキング)の要素を持ち込んでくるあたりがさすがにディーヴァー、ひと味違う。

 その上でいつものディーヴァーの底意地の悪さ(褒めてます)も健在。こちらの思いこみをがんがん裏切りながら、エンディングまで読者を引っ張る筆力はさすがだ。今回は底意地が悪すぎて最後に肩すかし食らっちゃったような気がしないでもないけどね。この辺、詳しく説明できないのがちょっと辛いけど、やっぱりディーヴァーの作品の根底にあるのは人間の心理であって欲しいと勝手に思ってしまうワケなんだけど、本作品ではそこらの落とし前の付け方に少々不満なしとしない、って感じだな。なんていうかな、ディーヴァーの守備範囲を超えた部分までお話が拡がっちゃって、それがお話の終盤に向けての盛り上がりを少々疎外する結果になってしまった、ってな感じかも。全体に"理解できる"範囲で進んでいたお話が最後の方でいきなり飛躍してしまったというか、そこら辺がちょっと惜しいかな、ってところなのですわ。

 二転三転するプロットの面白さ、キャラクタの魅力なんかには文句のつけようがないんだけれど、微妙にこっちがディーヴァー作品に期待している"味"みたいな物が薄味だったかなあ、と言う恨みはある。面白いんだけど、でもディーヴァーだったらもっと…って気にもなっちゃう微妙なポジションの作品、てことで。

02/11/21

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