太陽の闘士

銀河戦記エヴァージェンス(1)

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ショーン・ウィリアムズ&シェイン・ディックス 著 小野田和子 訳
カバーイラスト 倉本裕之
カバーデザイン ハヤカワ・デザイン
ISBN4-15-011419-6 \720(税別)
ISBN4-15-011420-X \720(税別)

結成、宇宙の麦わら海賊団(違)

 もはや太陽系(ソル)と言う言葉すら伝説となったはるかな未来。人類はいくつかの種と文明に分化し、様々な星間国家を築き、統合と抗争を繰り返していた。そんな星間国家の一つ、帝国連邦の情報部に所属する女性士官モーガン・ロシュは今、老朽フリゲート艦、"ミッドナイト"に座乗していた。今は囚人護送艦として使われるこの船に同乗したのは、新型のAIを無事に基地に持ち帰るという彼女に与えられた任務のため。だが、彼女の私室を突如訪れた人物によって、順調と思われた任務は一転、想像もつかない冒険へと様変わりしてしまったのだった。救命ポッドで宇宙を漂流していたその男ケインには、7日分の記憶しかなかったにもかかわらず、知力、体力ともに常人をはるかに超える能力を備えていたのだ。そして彼がロシュの部屋を訪れたのと時を同じくするように、"ミッドナイト"の針路上には帝国と敵対する独立国家、ダート・ブロックの艦隊が…

 オーストラリアの新鋭SF作家コンビによるスペース・オペラの開幕編。"銀河戦記"だのちょっと「おいおい」と言いたくなっちゃうカバーイラストとデザインで、「こりゃヘタレな外国製ライトノベルみたいなもんかも知れんなあ」と思って読み始めた、し、序盤は何となくそういう雰囲気もあったんだけど序盤を乗り切ったあたりから俄然おもしろさが加速。ラストのどんでん返し、さらにそれに続くちょっとにやりとしたくなるエピローグまで楽しく一気に読めちゃった。

 シリーズ開幕編なので、これから先の冒険に赴くことになる主要メンバーが集まる、ってお話な訳なんだけど、そのストーリーのバックに人類という種の、数十万年にわたる"業"みたいな物が存在し、過去の人類が未来に残した何物かを巡る謎だったり、いくつかの種に分かれた人類の、その種ごとの相克みたいな物がお話のバックに控えているらしい、ってなほのめかしが上手に織り込まれてたりして、続きへのヒキもなかなか。その辺のSF的な"仕込み"もいいんだが、それ以上にもう、キャラクタが魅力的。

 個々のキャラクタはそれほどぶっ飛んだ物じゃあないんだけど、一番普通な人間であるロシュのまわりに次々と集まってくる人物が、超戦士だったり強力な超能力者だったり、老獪なリーダーだったり(実はもう一人、ものすごく重要な人物がいるんだけど、それは秘密)して、それぞれ一人で充分やっていけるような人物なのに、なぜか彼らの中心に、全く普通の人間であるロシュがいないとチームがうまく機能しない、ってことでこれはあれですよ。「オレは人に頼らないと生きていけない自信がある(どんっ)」(©モンキー・D・ルフィ)ってわけですな。ここらあたりの持って行き方がなかなかうれしい。

 さてルフィには「おまえに勝てる!」って言える要素として"ゴムゴムの実"があるんだけど、ロシュの"ゴムゴムの実"は、彼女と連結されてる超AI、通称"ボックス"。R2-D2並に使えるこのAIを巡って、このシリーズ第一作は大冒険が繰り広げられる訳なんだけど、この"ボックス"もなにやらいわくありげな感じで、いい感じの先へのヒキになっている。

 敵方であるダート・ブロックの新鋭艦の艦長もなかなかいい感じ(だし、設定としてもすごく面白い)で、なにやらバックに壮大なお話がありそうだなーと思いつつ、ロシュを中心にした混成チームのこの先の活躍を楽しみにしたくなっちゃう一作。いや、こりゃなかなか。全然期待しないで読んだのが良かったのかな、って思ったら、共著者の片方、ショーン・ウィリアムズって、90年代SF傑作選に収録されてる「バーナス鉱山全景図」を書いた方だったんですな。ふむう、本作でも途中で見知らぬ世界を旅する登場人物たち、ってなシークエンスがあってここがかなりいい感じである訳なんだけど、なるほどそういう人であったか。

 つーことでいよいよ結成されたロシュと彼女の仲間たちの次なる冒険を楽しみにするですよ。なかなか楽しめる一作。

02/11/12

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