イリーガル・エイリアン

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ロバート・J・ソウヤー 著/内田昌之 訳
カバーイラスト 加藤直之
カバーデザイン ハヤカワ・デザイン
ハヤカワ文庫SF
ISBN4-15-011418-8 \940(税別)

裁判長!ミステリ味が薄めです!

 ついに地球人に異星の隣人ができるときがやって来た。アルファ・ケンタウリからやってきた異星人、トソク族。思いもかけぬファースト・コンタクトだったがコミュニケートは思いのほか順調に進み、人類は新たなる隣人を得た喜びをかみしめていた、その日までは。

 コンタクトで重要な役割を担ったサイエンス・ライター、カルフーンの死体が発見されたのだ。人類の持ついかなる刃物でも不可能に見える鮮やかな切り口による失血死が主な死因と判断されたが、カルフーンの死体はさらに、内臓と顎から下、さらに片方の眼球が取り去られた、惨殺死体といえる状態で発見されていた。しかもそこには、トソク族の物と思われるいくつかの状況証拠も残されていたのだった…

 ソウヤーというとその日本初登場作品、「ゴールデン・フリース」が宇宙船で起きた殺人事件を巡るお話だったりするし、そもそも良質のSFのいくつかは同時に良質のミステリの風味も併せ持っているものであるわけだけど、法廷SFってのは初めてじゃないかな。で、このリーガル・サスペンス物としてのディティールの組み立てぶりが実に緻密かつ微妙にユーモラスで楽しめる。その公判の過程で、徐々にトソク族の生物学的な特徴や物の考え方などが明らかになっていき、人類との違い/共通点などが鮮明になっていく過程を読む、というのは正しくSFならではの楽しみであると思う。

 その上であえて言わせていただけるならばこのお話、ソウヤーにしては拡げた風呂敷が少々小振りな恨みがある、とも感じた。「さよならダイノサウルス」の、「だーっはっはっは、そんな訳あるかよおい」(褒めてます)的な快感に欠けるというか。

 ミステリは苦手なんだけど法廷物は例外的に好きで、時々読むんだけど、法廷物の快感って言うのは、一見不利な状況を、綿密な調査と推理で補った主人公による論理のアクロバット(というか口先三寸というか)でひっくり返し、陪審員を味方につける、その一瞬にあると思うんだけど、で、ミステリ仕立てのSFならば、そのどんでん返しにもSF的なおもしろさが充分詰まっているものであってほしいと思うわけだが、そこがちょっとなあって感じ(少々ネタバレになるけど、どんでん返しって事なら、実はその(裁判沙汰の)あとに別のかたちでどんでん返しは待っているわけなんだけど、そちらも少しばかり唐突かな、って感じはした。これはこれで'60年代のファーストコンタクトSFっぽくて嫌いってほどじゃあないけどね)。

 それにしてもあれですな、この手の法廷物がドラマになりやすいのは、陪審員制度っちゅー物があるからな訳で、で、ドラマである以上陪審員たちはおおむね「理想的な」(『正しい』かどうかは実はたいした問題じゃあないのだ)判断を下す、という前提の元にお話が展開するわけだが、その前提は常に間違いない、と信じてるあたりは日本人でかつ疑り深いオレなんかにはちょっと理解できない物があるんだけどな。"アメリカン・ウェイ"とはかくも偉大である、ということなのか、ってソウヤーってカナダの人じゃん、ううむ。

 蛇足ながら、本作中でエイリアンたちは一人の学者の講演を聴きに行く、というシーンがあって、この学者が先日亡くなったスティーヴン・ジェイ・グールドだったりするあたり、ちょっとした感慨がありましたです。

02/10/27

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