小説 ウルトラマン

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金城哲夫 著
カバーデザイン 神崎夢現 (©1966 円谷プロ)
ちくま文庫
ISBN4-480-03759-4 \840(税別)

すねるハヤタに萌え

 第一期ウルトラシリーズの立役者、金城哲夫氏が残したウルトラシリーズに関連する小説、読み物、シナリオなどを集めたもの。あっと驚く秘蔵の新資料、なんて物はないし、基本的に年少さん向けに書かれた文章が大部分なので、全く新しいウルトラの物語が読めると言うものでもない。あくまで副読本的な意味合いの物。それでは価値も低いのか?いえいえ、これがですね、三つの点でわたくし的には非常に楽しく、かつ有意義な読み物であったと言えるわけで。

 まずは最初に収録されている、ジュブナイル版「ウルトラマン」。竜が森上空でハヤタが赤い玉と衝突したところからお話ははじまり、いくつかの戦いを経て、最後のゼットンとの戦いに至るまでが手際よく描かれているわけなんだが、この小説では、テレビシリーズではともすれば没個性的なキャラクタであったハヤタという人物に対する描写がずいぶん増えてて楽しめた。

 なにせ一番肝心なときにはウルトラマンになっているものだから、ハヤタにぎりぎりのドラマは演じられないわけで、そのため前述したとおりテレビシリーズでは少々無個性な人間になってしまったハヤタなんだけど、小説版では、猛烈に厳しい訓練をすべてトップでこなしてきたエリートであることが改めて描かれ(ちなみにアラシ隊員はハヤタより一年先輩なんだが、途中で一度ダブって卒業はハヤタと同期なんだそうだ)てはいるけれど、戦闘中、ウルトラマンに変身するため持ち場を離れたところをマスコミにスクープされ、卑怯者扱いされて腐ってみせたり、結局ウルトラマンがいれば何もかもオッケーだとすねるイデ(このエピソードは本編でもありましたね)を持ち上げたり、叱ったりと結構気苦労しているあたりが描かれててちょっと楽しい。

 二点目、同じくこの小説では、地球侵略をもくろむ宇宙人側にも緩やかな同盟関係みたいな物があり、彼らはそれなりの約定の元で地球侵略を行おうとしているのだ、という設定があって、こいつもなかなか。メフィラス議長の議事進行のもとで、バルタン、ザラブ、さらに怪獣酋長らが「オレの作戦こそが最高だー」と言い合い、それを同じ会議の席で冷笑しながら見守りつつ、自らは最強の対ウルトラマン兵器である宇宙恐竜を育てている謎の宇宙人、つー描写が割と早い段階で明らかにされてるだけに、一本のシリーズとして見たときにも、次回へのヒキがうまく続くようになってるあたりもいいね。一週おきに見るテレビ番組と違い、小説の体裁ではどうしても伏線が必要になるって事なんだろうけど、この侵略宇宙人会議は本編でも一度は見てみたかったな。いきなり巨大化させられるバルタンやザラブ星人も、じつは議長命令でいやいややってたのかもしれん、とか考えたら楽しくなって来るじゃないですか。

 んで最後に「セブン」のシナリオ(第一話)。第一話の終わりは、ウルトラ警備隊の6番目の隊員としてダンが紹介された(ここでテレビの第一話は終わっている)あとに、そういえばあの赤い巨人も、新しい、7番目の隊員みたいなものだよな→じゃあ彼をウルトラセブンと呼ぼう、ってシークエンスがあって、そこがごっそり抜けてるのでなぜ彼が「ウルトラセブン」なのか、わかりにくくなってしまった、っていう有名なエピソードがあるんだけど、実はもう一個、シークエンスが落ちたために不可解になってしまった部分があったのだね。

 クール星人の見えない円盤の攻撃を受ける京浜工業地帯。焦る隊員たち。たまりかねたアンヌの台詞「ダン、あなたの地球がピンチにたたされているのよ!」、このあなたのってのがずーっと気になってたんです、個人的に。なんで「この地球」でも「みんなの地球」でもなく「あなたの」なんだ?

 で、実はこのちょっと前に、フルハシ、ソガを助けて基地に戻ったダンとアンヌの間で、こんな会話が交わされるシーンがあったのでした。

  アンヌ、ダンを案内して(メディカルセンターに)入ってくる。
アンヌ「ここが私の部屋、メディカル・センターよ……。ウルトラ警備隊のために、傷まで負って闘ってくれたお礼に、何かプレゼントしたいわ。あなたがいちばんすきなものは、なぁに?」
ダン「地球!」
アンヌ「(びっくりして)地球?」
ダン「そうです。僕が闘ったのは、ウルトラ警備隊のためだけではない。この美しい地球のためだ」
アンヌ「さすがは風来坊さんね。スケールがあっていいわ。お望み通り、青く美しいこの地球を心をこめてあなたに差し上げるわ」
  アンヌ、笑う。
ダン「ありがとう。宇宙広しといえども、こんなすばらしい星はないからね。僕はいのちをかけて地球を守るよ。悪魔のようなヒレツな手段で地球を盗もうとする宇宙人がウヨウヨしているからね」

 メフィラス星人がここにいたら、などと思わんでもないが、とにかくここでいったんアンヌはダンに地球をあげているので、そのあとで「あなたの地球」と言う言い方が自然に出たのだね。いや、胸のつかえが取れた気分だ。たぶん詳しい研究者の方がいらっしゃったら「何を今頃気がついておるんだ」とおしかりを受けそうではあるけどこれ、ほんとにすっきりしたんですよ。個人的にはここで元(ちくま文庫は高いんだけどな)は取れた気分だ。強くお勧めはしませんが、第一期ウルトラファンにはちょっとうれしい掌品って感じで、いかがですかね。

02/10/23

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