ラーゼフォン

時間調律師

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神林長平 著
BONES・出淵裕 原作
イラストレーション 出淵裕・末弥純・山田章博
カバーデザイン 岩郷重力+WONDER WORKZ.(海老原秀幸)
徳間デュアル文庫
ISBN4-19-905120-1 \590(税別)

調律変形楽器ロボ(そうか?)

 地球連合監察官、村瀬明を乗せて試験航海中のTERRAの攻撃型潜水艦"ユーフォニィ"。順調な試乗に見えたそのとき、水中から接近するMUの攻撃兵器、ドーレムの影が。直ちに応戦態勢に入るユーフォニィ。だが時すでに遅くドーレムはその巨大な触手でユーフォニィを締め上げ、そして………。

 そして数え切れない「死」の体験のあと、明は決まって16歳のある日に戻って目覚めるのだった。あと少しの時間の後、初めてMUが地球を襲撃した、その日に。

 出淵裕の初監督作品をテーマに神林長平が描く、もう一つの「ラーゼフォン」。アニメの方は2、3回しか見たことがなくてよくわからないのだけど、いかにも今風な、雑多な情報を前置きなしに次々と繰り出して、一見複雑に見える世界観を構築して、その中で作り手たちが気ままに、思いついたことを思いついた順番に表現しているようなアニメに見えたんだけど、ほんとのところどうだったんだろう。作画レベルはかなり高かったんでもう少し見たかったんだけど、何せ神戸では阪神チャンネルであるところのサンテレビでの放映だったので、時間帯がむちゃくちゃで、とてもじゃないけど毎週しっかり時間を確認してビデオをセットする、なんてやってられなかったのですわ。

 んで神林版「ラーゼフォン」。アニメが大量の情報が無作為にばらまかれた世界だったとすると、こっちは作家の手で徹底的に情報統制がなされ、登場人物たちは限られた情報と手段をもとに自分が何で、何をすべきなのかを模索していくようなお話になっていて、じつにこの、"神林してる"小説になっていると思った。なんたってちゃんと登場人物が「フムン」っていうもんね。

 原作ではどうなのか知らないけれど(ありそうではあるけど)"ラーゼフォン"をラー・ゼフォンと切って、その"ラー"のほうからエジプトの神話体系を持ち出してきたり、そこに主人公の名前までも関連づけて見せたりするあたりはさすがにうまい。アニメ版とは切り離して読んでも全く違和感のない話ではあるけれども、アニメを見てると、聞いたような名前に再会できたりするあたりの仕掛けもうまい。

 その上でこのこのお話、ちゃんとジュブナイルの体裁を備えてるあたりがなかなかええなあと思った。もちろん神林SFなんで、時々読者は幻惑されるような目にも遭うのだけど、総じて見るならこれ、一人の少年の冒険と成長の物語になってるのだね。この辺、神林氏が(デュアル文庫であることを)意識してそうしたのかどうかは判らんけれども、なかなかうまいなあと感じた。最終章、なかんづく最後の一行なんてのはもう、ジュブナイルの理想的なエンディングではないかと思ったですよ。

 神林節全開とまでは行かないけど、これはこれでなかなか楽しめました。ええ、わたしゃジュブナイルには点が甘いんですともさ。それはそれとして…

「そうだな。こんな世界を体験すると、劇を終わらせられないのは作者に力量がない証拠なのだ、と思う。セトは駄目な作者だ。出演するわれわれとしてはかなわない。やってられないぜ」

 個人的にタイミング良すぎてツボですた(w

02/10/19

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