「影」の爆撃機

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デイル・ブラウン 著/伏見威蕃 訳
カバーイラスト 安田忠幸
カバーデザイン ツトムヤマシタ
二見文庫
ISBN4-576-02157-5 \790(税別)
ISBN4-576-02158-3 \790(税別)

とうとうトンデモまで墜ちたか…

 ユーゴスラヴィア、コソヴォ自治州。内戦状態が続くこの地に駐屯していたロシアの平和維持軍は、ある夜コソヴォ解放戦線を名乗る組織の襲撃をうけ、指揮官カザコフ大佐を含む十数名のロシア人が惨殺されるという事件が発生した。だが、疲弊したロシア政府はこれに対して何ら有効な手段を講じることもできずにいる。カザコフ大佐の息子にしてロシア屈指の富豪、パーヴェルは弱体化したロシアの現状に怒り、自らロシアをかつてのような強国の地位に押し上げることを決意する。彼の手許にはそう決意させるだけの強力な武器、旧ソ連時代から極秘に開発が続けられていた画期的なステルス爆撃機、Mt-179があったのだ…

 てんでパトリック・マクラナハンを主人公にした"ドリームランド"物の最新作。ここしばらくアジアに目がいってた作者だが、今回は一転、かつてのライバル旧ソ連がまたもや悪だくみをやらかしてるらしい、ってな筋立てでやってきた。これをいつものようにマクラナハン以下の面々が強引にたたきつぶしに行くってお話になっている。わかりやすい悪党、その悪党が手にした秘密兵器が、実はこのシリーズの旧作、「レッドテイル・ホークを奪還せよ」でちょっと語られていた機体だった、てなあたりのヒキはシリーズ物ならではの強みといえるか。"ドリームランド"やホワイトハウスを巡る人間関係の時代を経ての変化なんかも、同じくシリーズ物の強みをうまく生かしていると思う。

 でもなあ、これ、とうとうトンデモ本とそうでない本の境ぎりぎりのところまで墜ちちゃってしまったような気がするな。あらゆる銃弾を跳ね返す装甲服に劣化ウラニウム弾を発射するレイルガンを構えた兵士、っておい。ニューロコンピュータを備えて、おおざっぱな指示を与えればあとは自分で独自に判断して行動する無人機っておいおい、その上新大統領の新たなモンロー主義を危険と見なす前大統領が、自ら極秘の平和維持部隊を創設して、っておいおいおい。

 もとよりこの手の小説なんてのはどこか現実離れしているモンなんだけど、それにしてもこいつはちょっと行き過ぎじゃないのかな。ハイテク軍事サスペンスだからって、超えちゃいかん一線はあると思うんだが。微妙にどこかで、現在の技術レベルを考えて「そこまではできそうね」って納得できる範囲でホラを吹いてもらわないと困ってしまうのだけれども。

 シリーズが長く続いたせいか、初期のワクワク感がかなりなくなってしまったような気がするな。「オールド・ドッグ出撃せよ」から「レッドテイル・ホークを奪還せよ」あたりまではかなり楽しめるシリーズだったのだけれどなあ。版元がハヤカワから二見に移ってからは少々出来のよろしくないシリーズになってしまったなあと思っていたんだけど、いよいよ最後って感じ。このシリーズもこの辺で縁切りかな。

02/10/18

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